「起立! 礼!」

「「「「「おはようございまぁす♪」」」」


「……………………おはよ」

うわっ! テンション低ぅ!
生徒達の爽やかな朝の挨拶にヘドロのような声で答える葛城ミサト。

原因はもちろん二日酔いだ。
レイに賄賂に頂いた「えびちゅ」の山と格闘した結果がこの有様である。
ほぼ一年分(しかも金持ちの)といえるような量を週末の二日で飲んでしまったのだから流石のミサトでも辛かったらしい。

「今日は先週に引き続きこのクラスに転校生がくるわ。なんで他のクラスに行かないの? とかいうベタな突っ込みはなしでお願いね」

なんかもう朝から生徒達のやる気すら奪っていきそうな程の低テンションだ。

「じゃあ転校生入ってきて。そして勝手に自己紹介して勝手に自分の席を決めて。私はちょっち寝るから」

そう言ってあっという間に肝臓の動きのみに身体の機能を集中させる。
ミサトの声によって導かれるように音を立てスライドするドア。


「「「「「きゃああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」


女子の地震を引き起こすような歓声を浴びながら歩いてくる転校生。
ちなみにミサトはこの歓声の不意打ちを受けて泡を吹いて失神していた。(笑)

「あっ!(赤)」

シンジもその転校生を見て声をあげ、ぽっと頬を染めた。
目敏くその反応に気づいたアスカが「知り合いなの?」と冷たい目で見る。
悔しいが通常のゴミ虫よりは容姿が整っているといっていい。
警戒するのも最もだ。

「え、うん……、知ってるというかなんというか」

確かに知ってはいるが、この前初めてあったばかりなので微妙な関係である。

「はじめまして皆さん。僕は渚カヲル。カヲルと呼んでくれて構わないよ。(ニッコリ)」

「「「きゃあー! カヲルく〜〜ん!」」」

本当にノリのいいクラスだな。流石に担任がミサトなだけある。
カヲルも女子たちの反応に気を良くしたようでお得意のなんたらスマイルを披露している。
その爽やかさはとある四様の比ではない。

「で、他にもなにか言った方がいいんだよね。ええと、趣味はヴァイオリン、絵画、乗馬がメインかな?
クルージングなんかも好きだけど。特技は……、色々ありすぎてね」

も、ものすごい癪に障る自己紹介だぜ。

「将来の夢は父の跡をついでゼーレコンツェルンを世界一にすることかな」

「ぜ、ゼーレコンツェルンってあの有名なゼーレコンツェルンのこと!?」
 
一人の女子生徒が言った。

「まあそうだね」

「「「「きゃあ! 凄い!」」」」
 
全女子生徒が叫んだ。

「凄いのは父や祖父であって、僕はまだ半人前さ。だからこそ将来はそんな父たちを超えて僕がゼーレを支えるんだ」

微笑みの下に隠された信念のようなものをうまく女子生徒たちに伝えるカヲル。
完全に完璧に、完膚なきまでに女子生徒たちの心を掌握した。
たった5分にも満たない時間のことであった。

「それで僕の席だけど……、勝手に決めていいらしいね」

ちらっとミサトを見るが彼女は口から泡を吹き、耳からリンパ液とかアルコールなどの体液を滴らせて机に臥している。
指示を受けるのは無理だろう。

「さて……」

ぐるりと教室を眺める。女子生徒は生霊すら滲み出るぐらいの祈りのオーラを発し、
男子は血が蒸発するかのような煮えくり返った射殺す視線を浴びせている。

「じゃあそこに……」

暖簾に腕押し。
殺気、呪詛などなんのその。
カヲルが歩いていったのはお約束どおりの席。

「やあ、久しぶりだねレイ」

そう、つい先日転校してきたばかりの綾波レイのところだった!

「なにしにきたの? ……ナルシス」

「ふふふ、僕の名前はカヲルだよ。元婚約者の名前ぐらい覚えていて欲しいな」


「「「「「婚約者ぁ!!!!!」」」」


「そう、レイと僕は小さい頃から親によって婚約させられていたんだ。僕はそれでも構わなかったんだけどね。
それにレイもそれが当然だと思っていたはずだ。だけど先日急に婚約解消の知らせを受けた。流石の僕も驚いたよ。一体何が起こったのかとね」

「もう貴方は用済みになった。それだけよ」
「どうやらその通りのようだね」
「ええ、だからわざわざ追いかけてきても無駄。私は貴方をもう虫けら以下にしかみれないから」

いや、別に人間としてみてもいいじゃん。元婚約者なんだから……。(汗)

「ふふふ、勘違いしないで欲しいなレイ。僕は別に君を追ってここに来たわけじゃない」
「……どういうこと?」

渚カヲルが自分が転校して間もないのに後を追うように転入してきた。
自分と関係があると思うのは当然だ。

「君がなぜ僕との婚約を解消してこの学校にきたのか調べさせてもらったよ」

「っ!?」

無感情の代表のようなレイの目が見開かれる。 

「そう。僕の目的は君と同じさ!」

カヲルは大げさな声色でそう宣言してある方向を見た。

「え? ……あの。(赤)」
「また会えたね。碇シンジ君。(ニッコリ)」

そう。
渚カヲルは言葉通り、レイの隣に座っているシンジに向かって魅力最高潮の微笑を披露した。

 

 

 

 


モエる日常 第5話

 

 


「また会えたね、シンジ君」

親しみの声色で、女殺しの微笑でシンジを見つめるカヲル。

「は、はいっ、この前はどうもありがとうございましたっ。(赤)」
「ちょっとバカシンジ! どういうことなのよ! 説明しなさいっ、20字以内で!」

自分の目の届かないところでシンジに知り合い(しかも男!)が出来るなんて許せない。
しかも20字以上の馴れ初めがあるのなら、それはもう許せることではない。

「あ、うん、この前、綾波さんの歓迎会をやったときに……、その買い物したときにちょっと助けてもらって」
「そう、それでそのお礼に僕はシンジ君にバナナを頂いたんだ。ふふふ、初めてだよ。お礼にバナナを貰うなんて」
「あ、アンタ! それであの時、バナナが無かったのね!」

いつもお約束のように買って来るバナナがあの時はなかった。
シンジらしからぬミスにえらく立腹したものだが、そんな理由があったのなら尚更許せない。

「ありがとうシンジ君。あのバナナ、とても美味しかったよ。一本は今も記念に特殊な額縁に入れて部屋に飾ってるよ」
「え、いや……、普通に食べたほうが」
「大丈夫、特殊な加工を施したからね。食べることは出来なくなったけど、永遠にあの形状を保つことは保証する」
「そうなんだ。(汗)」

別にそんな保証をされても嬉しくない。というかどうでもいい。

「なにせアレはシンジ君が僕にくれた婚約の証だからね」
「……えっ?」
「あのバナナは僕とシンジ君の婚約の契り、証しなのさ。決して無くさないし大事にするよ」
「あ、あの、カヲル君……、君が何を言ってるのか分からないよ」

セリフパロ十八番出たぁ!
確かに台詞の変遷を追っていけばカヲルは狂った人以外の何者でもない。

「待ちなさいよ! アンタ! 勝手に話の主導権握って勝手にシンジをこまそうとしてんじゃないわよ!
そんなのオテント様が許してもこの惣流・アスカ・ラングレーが許さないわよ!」

「それに実を言うと僕達は小さいころに会って婚約の誓いを交わしているんだよ?」
「ええぇ! 無視ぃ!?」

うわぁ〜、ギャグキャラの方向に走っちゃったよアスカ様。
しかもオテント様ってカタカナでいわれると、オランダかどっかの神父様みたいな雰囲気になるね。(ならんわ)

「そ、そうなの? ……僕、カヲル君と会って……、た?」
「そう、あれは確か5歳ごろだったかな……」

周りへの配慮も無く、カヲルは回想に入った。

 

 


夕暮れの公園。数時間前まではたくさんの子供達で溢れていたが、
時間が経つにつれ一人、また一人と居なくなっていき、今では砂場に二人の子供が居るだけだった。
一人は黒髪の男の子。砂で子供が作ったとは思えないほど精巧な石窟(アジャンター石窟寺院(内部構造を正確に再現))を作っている。
もう一人は銀髪の男の子で黒髪の男の子の横顔をジッと眺めている。
そしてそんな状態が続いていると、不意に銀髪の男の子が黒髪の男の子に話しかける。

「シンジ君」

銀髪の男の子が口を開く。

「なに?」

黒髪の男の子が手を止める。

「歌はいいねぇ」

「うんっ!(嬉)」

 

 

 

 


「というわけなのさ」

 

「なによそれ! 全然関係ないじゃない! それのどこが婚約の約束よ!
それに碇家の歴史書(碇家叙述伝)にはアンタのことなんてのってなかったわ!」

様々な国の歴史書のような体裁のものが碇家にもあるらしい。

「な、なにそれ? なんでアスカがそんなの知ってるの?(汗)」

シンジも初耳だった。
なにせこれはかなりの機密情報(シンジ限定)の宝庫なので幹部中の幹部しか閲覧できないのだ。
だからシンジが知る由も無いし、知られるわけにもいかなかった。
それはシンジのパーソナリティに関すること。ほくろの位置から日々の寝言まで克明に記されているので決して他言無用だ。
ちなみにその記された寝言の中で、日出ずる寝言と言われているのは、

「ふふ、そんな悪い子には……、イタズラしちゃうよ?」

である。
この録音に成功したユイ・ゲンドウ夫妻はとっておきの年代ものワインをあけて祝杯を上げたという。(馬鹿だろお前ら)

 


「ねぇねぇ! なんなのその歴史書って! ねぇアスカ!」
「う、うるさいわね! それは秘密よ!アンタにはまだ10年早いわ!」

うっかりと口を滑らしてしまったのだからバツが悪い。
いつものジャイアニズムでシンジを黙らせる。

「それよりも話を戻すけど、カヲルって言ったわね! 悪いけど、いえ全く悪くないけど、アンタにシンジをどうにかする権利なんて全く無いわ!
なぜならシンジは私のものであり、所有物であり、下僕であるのよ! あんたの入り込む余地はこれっぽっちもない!」

「どうだいシンジ君。思い出してくれたかい?」
「ふわぁ〜! また無視だぁ〜〜!!」

いや、だからそのリアクションはやめたほうが……。
ギャグキャラ属性がかなり強くなってしまいますよ?

「あ、あの、やっぱり、前に会ったのが初めてだと思うんだけど……。カヲル君みたいな……、その、カッコいい人なら、忘れないと思うし」
「ふふふふ、嬉しいよ。シンジ君にそう言って貰えて……」
「あっ、……あのっ、それは……。(赤)」

つい口から本音を零してしまったので慌てふためくシンジ。

「ちょっと待ちなさいよっ。誰があんたらにラブコメろって言ったのよ! いえっ! 誰も言っていないわ!
あんた達にラブ米する権利なんかないのよ! シンジはアタシのモノ! アタシのモノなのよ!」

「そうなのかい? シンジ君」

「え、いや別に。……僕は僕だし……。アスカは大事な友達だけど。
もちろんアスカの言うことは出来るだけ叶えてあげたいし、困ったことがあったら絶対に力になるつもりだけど」

「あ、当たり前……よ」

ツンデレ属性のキャラに素直な告白は痛い。深刻なダメージだ。

「碇君、私は?」
「綾波さんももちろん大事な友達だよ。困ったことがあったら絶対に力になるし、僕にしてほしいことは出来るだけ叶えてあげるつもりだよ」
「そう。(赤)」

シンジ一筋のレイにもこれはキツイ。深刻なダメージだ。

「ふふふ、でも二人とも大事な友達ということは、僕は婚約者でも良いと言う事になるんだね?」

「そ、それはっ……、で、でもカヲル君。カヲル君は知らないかもしれないけど、信じられないかもしれないけど、
僕は男にも女にもなれるんだよ? そんな変な子と……、け、結婚するなんて嫌なんじゃ……」

そう。人知れずシンジが悩んでいることの一つである。
どっちつかずの性別ではどっちを恋愛対象にすれば良いのか、
そして相手はそんな簡単に性別が異性、同性と変わっていくシンジを気味悪がってしまうのではないか。
それが心の棘になっている。(確実に馬鹿親のせいですね)

「ふふふ、そんなのは調べてるし些細なことさ。僕はシンジ君が男の子でも女の子でも等しく愛せるよ?
僕にとって性別は等価値だ。君がどんな姿をしていようと、君の心を愛しているんだからこの想いは変わらない」


「僕は君という存在が好きなのさ」


…………………………。


「……あっ、……ぅ、……」

見る見るうちに首筋、顔、耳が真っ赤になってくる。
ここまでストレートに自分を認めてくれた人は初めてだ。(ユイやゲンドウは除外して)
アスカは下僕という建前だし、レイはもちろんカヲル並みだが言葉にするのが得意ではない。
そんな中、カヲルは直球で好意を表し、シンジの全てを受け入れた。

「あ、あの、あのっ! 僕……、あのっ」

しどろもどろになり、視線は右往左往。

「と、突然そんなの言われて、あの……、嬉しいっていうか、困るって言うか、まだ結婚は早いっていうか、
あ、でも婚約はいつでも出来るの? ……で、でもやっぱりそういうのも早いと思うし」
 
完全に落とされそうになっている。
 
(ぬぅ……)

まずい。非常にまずい。
アスカは心の中で呟いた。
なし崩し的に婚約が結ばれそうな雰囲気だ。
それは最終的にユイが許さないと思うが、カヲルへの好感度がこの短時間で上がりすぎているのは由々しき事態。
さっきから好感度アップの効果音がヘビメタのようにシンジの心に鳴り響いているのが分かる。
これ以上、彼奴の暴挙を許せばシンジが寝取られる。それは断固避けなければならない。

ならばどうすればいいか。

下手な割り込みでは抑え切れないだろう。言葉でこの現状を打開することは難しい。
ではあれならどうだろう。

「ふふふ、僕の心は変わらないよ。……だからシンジ君」
「あっ、蚊がとまってる」

あれならいける。そう、これならば……。
言葉が駄目なら拳で語ろう。拳で割って入ろうじゃないか。
完全無欠の結論を導き出したアスカは迷い無く、渾身の力を込めてしなる様な拳をカヲルの顔面に叩きつけた。


「結婚しよおわばっ!」


思いっきりアスファルトに叩き付けたスーパーボールを想像してほしい。
そう、アレだ。

あの勢いでカヲルは窓を突き破り、学校から飛び去っていった。


「もう、蚊を仕留められなかったじゃないっ!」

他のモノは確実に仕留めたアスカが憤慨した。

「か、カヲル君……」

呆然と彼の消えた方角を見つめるシンジ。
今までのパニックが一気に冷めるほどに唖然とする。

「惣、いえ……、アスカ」
「……なによ」

うねらせた拳を振りながら、有り得ないことに名前を呼んでくるレイに訝しげに応える。
レイは少しの間、ジッとアスカの事を見つめていたが、

「…………グッジョブ!」
 
そう言って初めて彼女に微笑んだ。
それは原作におけるラミエル戦で、レイがシンジに見せた微笑と同じであった。

 

 

 

 

「ええと、だからここがこうなって鎌倉幕府が崩壊するから社会主義の土台が出来るのよ。おえっぷ!」

二日酔いと先程の音波攻撃でノックダウン寸前のミサトが青白い顔と酒臭い息とともに黒板にチョークを走らせていく。
明らかに嘘情報が満載なので、みんな勝手に教科書を見て勉強している。

「それでね、北条氏がなんやかんやで江戸幕府を開くのよ。俗に言うペレストロイカね」
 
もう目も当てられない。本当に酷い授業である。
もっともその胡散臭さが、生徒達に「このままでは拙い」という気持ちを抱かせることに繋がっているので逆にやる気を上げさせていたりする。
ミサトの間違いを紐解いているうちに自然と本当の知識が身につくのだ。
 
「んっ……、あぁ、今日はこれで終わりね」
 
授業の終了を告げるちゃいむがなり、ミサトは生ける死体のような足取りで教室を去った。
あれはもう、ここ数日が峠。というようなやられ具合だ。
 
「さぁて、次は理科。リツコの授業か」
 
アスカが立ち上がって言った。

「ふふふ、次は理科の授業かい? 楽しみだね」
 
カヲルも立ち上がって涼しい顔で言った。

「なっ、いつのまに!?」

さり気無く、貴公子のようにそこにいた。
あんなに遠くに吹き飛ばしたはずなのに……。

「確かに良いパンチだったけど、あれで僕を滅することが出来ると思ったら、それは僕を過小評価していることと同義だよ」

常識的に考えてアレを喰らうのは死以外の結果はありえないのだが、ギャグキャラの血が入っていればその限りではない。
遺伝的にギャグキャラのDNAがあるものは驚異的な生命力を持っているのだ。

「だったら今度は細胞の一欠けすら残さない拳を味あわせてあげるわ」
「そうね、私も協力するわ」

昨日の敵は今日の友。とまではいかないが、差し当たって強力に邪魔な存在であるカヲルを消すほうが先決だ。

「これは困った。僕は別に君達と拳を交えたくてこの学校に転校してきたわけじゃないんだよ?
僕はただシンジ君に会うために来たんだ。いくら暴力で邪魔しようと僕の信念は折れない。それに女の子に手を上げられないしね」

「か、カヲル君……」

彼の強さは知っている。初めての出会いの時に悪漢から助けてもらったのだから。
あの実力ならアスカにだって引けを取らないはず。
それなのに女の子には手を上げないというポリシーから甘んじてあの攻撃を受け入れたのだ。
むざむざ当たらなくてもかわせば良かったんじゃ……。とかいうなよお前ら。
カヲルは恥をかかせたくなかったんだよアスカに。決して素で殴られたわけじゃないんだ。

「くっ……」
「…………」

ここまで言われて殴れる人間はそうはいまい。
なにせ相手はガンジー的だし、シンジは恐らくカヲル寄りだ。
さすがにもう蚊のネタは使えないだろう。

「さぁ、どうするんだい? それでも、僕に暴力を振るうのかい?」
「当ったり前よっ!」

「げぼぉぉぉ!!??」

カヲルは再度飛び立った。

 

 

 

 


「授業を始めるわ。まずプリントを配布します」

4時限目の授業が始まった。理科室に一同は移動している。

「いつもの通り、それに要点と解説を載せているから自学自習で覚えなさい」

金髪黒眉女教師リツコはそういった。そしてそれがこの授業の全てだった。
基本的にリツコは通常の授業はしない。
そんなプリント一枚にまとめて覚えさせれば良いことを一時間もかけてダラダラ話すなど考えられないのだ。
では何をするのかというと……。

「さぁ、実験を始めましょう」

そう。生徒達はただのマウスみたいなものだ。

「今日のテーマは「モエ」よ」

黒板に大きく「モエ」と書くリツコ。
酷くシュールである。

「数年前からモエという概念が世界的に認知されているのは知っているわね?
まだ厳密な概念化がされていない広義の語であるけれど、現在科学の分野でも注目されているの」


「「「………………」」」


全員、言葉もない。


「貴方達は火事場の馬鹿力という言葉は知ってる? 生命の危機ともいえる火事に遭遇したとき、通常の身体能力を遥かに凌駕する力を発揮することよ」

「知ってるわよそれぐらい。普段は脳がリミッターをかけて全力を出せないようにしてるんでしょ? それで危機の時はそれが解除されるって寸法よ」

「確かに普段から全力を出し切ると関節や筋繊維に大きな負担が掛かるから普段は抑えられているっていう説が一般的だね。あくまでも仮説の域をでないらしいけど」

「ちっ、もう復活したの?」

拳を食らうごとに回復が早くなっていく魔物のような貴公子、渚カヲル。

「そうね、貴方たちの言っていることで、おおよその説明をしていると思うわ」

リツコは手間が省けるといった感じでご機嫌だ。

「通常私達は5割程度の力で生活している。それは例え全力の疾走であってもね。
ただ危機的な状況に陥った場合、生きるか死ぬかの時に関節や筋繊維の心配をして全力を出さないなんて生物として限りなく馬鹿よね。
だからその時は身体能力の全てが解除されるのよ。それが火事場の馬鹿力と言われているわ」

「で、それがそのモエとやらとなんの関係があるのよ?」

「待ちなさい。きちんと説明するから。それで取り合えず火事場の馬鹿力は生命の危機のような深刻な事態の時に発揮されるというのはわかったわね?」

「ええ」

「実を言うと最近、新たなケースが次々と報告されているのよ。そしてそれがモエに関する事例なの」

実に生真面目な表情で不真面目なテーマを説明していく。

「まず一つ。ある老人のケースなんだけど、彼は事故で心肺停止の状態だったのよ。
その状態が3分、4分と続いて、必死の蘇生行為も実を結ばなかった。年齢も年齢だからもう絶望的。
誰もがそう思ったとき、そこに孫が現れたの。すると驚いたことに老人の心臓は動き始め、その後奇跡的に回復したのよ」

「いい話ですね。お孫さんの想いがそのご老人を救ったと……」

カヲルはしみじみと何度も頷いた。

「その孫は学芸会の劇の最中に飛び出してきたらしく、女装してたの。
まだ5歳。中性的、どちらかというとシンジ君に似ているような可愛らしい子だったそうよ。
老人は息を吹き返し、涙を流しながら孫の手をとり「……モエじゃ」と言ったらしいわ」


「「「………………」」」


「そしてもう一つ、海水浴に来ていたあまり泳ぎの得意ではない大学生が溺れたの。ナンパにきたけど冴えない男だったらしく徒労に終わって、
やけになって遊泳禁止の岩場で泳いでいたら足をつってしかも波に攫われたらしいの」

「それは絶体絶命ですね。……ですが、そこにモエが入る余地があるんですか?」

「もうだめだと思って、力も抜け水を飲み、沈み行く中で彼は見たそうよ。スクール水着を着たツインテールの美少女を」


「「「………………」」」


「彼は岩場で恥かしげに用を足そうとしていたその子を見つけた途端、信じられない力を発揮して浜に帰還したそうよ。
残念ながら少女はすでに去ってしまっていたらしいけど……。でもその溺れたポイント、
還ってきた経路は潮の流れがかなり強い所らしくて、川を遡る以上の力が必要らしいわ。そこを彼は泳ぎきった」


「その前に生命の危機に遭遇していた筈よね。その時に能力の限定解除がなされてもおかしくはなかった。
だけど彼の場合、モエの力で火事場の馬鹿力と同じ現象を起こしたのよ。
彼はのちに「モエの力なんです。あの子の表情がとてもモエモエだったから……、死ねない。そう想ったんです」と誇らしげに語ったそうよ。
まるで一皮むけた聖人のようだったと地元の漁師が言っていたらしいわ」


「「「………………」」」


「だから私はそのモエを解明してみたいの。人間の限定解除の仕組みをその方向から解明する手がかりにもなり得るし、
将来的にはモエが重要な科学の一テーマにさえなりえるのよ。いえ、すでに現実としてモエは科学の一領域を担い始めているわっ!」
 

「「「………………」」」

 

 

 

「シンジ君。ちょっと前に来てくれるかしら」
「えっ? ……は、はい」

話の途中で突然呼ばれてキョトンとするシンジ。
だが静かに立ち上がりおずおずと前に出る。

「この柱の前に立ってもらえるかしら」
「あ、はい」

人間を貼り付けに出来るサイズの十字架がそこにあった。
カチン、カチン、カチン、
右手、左手、両足。淀みなくリツコはシンジの手足を拘束具のような革で固定した。

「あ、あの、なんですか? これ」

全く状況が把握できないシンジ。

「ちょっとリツコ! どういうつもりよっ!」
「そうだよ。シンジ君を縛っていいのは僕だけだよ」
「碇君を解放して」
 
三人が三様に遺憾の意を示している。
 
「待ちなさい。これは実験よ。シンジ君には実験を手伝ってもらうのよ。もちろんユイさんには許可を貰っているわ」

リツコは室内に備え付けのテレビの電源をつける。

 

『やほー! シンちゃん元気ですかぁ!? お久しぶりっ、ユイお母さんですっ!』
『ゲンドウだ』


「ビデオレターよ」

リツコが言った。


「朝会ったのに……。(汗)」

 

『なんでもリッちゃんがシンちゃんに実験の協力をして欲しいというので何だか分からないけど許可を出しておきました』
『よくやったな、シンジ』


「な、なんで母さん達が許可を出すのさ……。あと父さん、意味わかんない」


『わがままはいけませんよぉ? 学生は勉強が本分です。先生の言うことを聞いて一生懸命モエモエなことをしてください』
『すまなかったな、シンジ』


「な、なんなのさ、モエモエなことって……」


『それじゃあまた今夜会いましょう。夕飯楽しみにしてるからねぇ!』
『……おま』

プチン。ゲンドウのコメント開始の前にビデオレターは途切れる。

 


「というわけでシンジ君には実験の手伝いをしてもらいます。女性態になっているのは好都合だわ」

シンジの足元の床がゆっくりスライドして開かれた。
中から細いアームのようなものが二本出てくる。
それらがシンジのスカートの裾を掴んだ。

「え? え? ……ちょ、ちょっと!(赤)」

アームは徐々にスカートを持ち上げていく。どん帳のように捲くりあがっていく。

「なっ! なによこれ!」
「くっ!」
「…………!」

シンジ救出のため、弾丸のように飛び出そうとした三人。
その足、腕に鉄製の拘束具がはめられた。
椅子に仕込まれていたらしい。

「な、なんやこれ!」
「一体なんの仕掛けだよ!」

どうやら三人だけではなく、他の生徒一同にもはめられているらしい。

「さぁ、実験の始まりよ! 貴方たちにはモエの力によって限定解除をしてもらいます。
その拘束具は貴方たちの潜在的な筋力を測定して全ての力を出した時にのみ動くように自動的に調整されている。
そしてそれを破壊するには筋力以上、110パーセントの力が必要なの。これからシンジ君のスカートはどんどん持ち上げられていくわ。
でも今のままじゃ前に障害物を置くので見えない。だから見える位置まで這い上がってきなさい。
その拘束具は限定解除すれば動く。それでシンジ君のスカートの中が見えるところまで行くのよ。
仮に拘束具を破壊して到達した場合、シンジ君の貞操も好きにしていい」

 

「「「………………」

 

その言葉で室内は凍った。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいリツコ先生っ! あ、だめ! もうめくらないで! ホントに見えちゃう!」

スカートがめくられていく、まだ障害物はない。健康的な太ももが姿を現す。
中学生らしからぬエロいももだぜ、へへへ。

「リツコ先生っ、やめてください! こんなのイヤです! なんで僕がこんな!」
「残念だけど、もう私には止められないわ」
「ど、どうして……、ひっ!」

諦めの早いリツコに疑問をぶつけたところで気がついた。
リツコの指差した先は無数の野獣の瞳で埋め尽くされていた。
それらの欲望が一身に自分へぶつけられていたのである。

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉ!」
「くぁぁぁぁぁ!」
「きぃぃぃぃぃ!」
「ぎぎぎぎぎぎぎ!」

思わず聞いている方も力が入ってしまうような声、奇声に近い雄たけびが響く。
なかにはfate的苦痛の声すら聞こえる。絶対に入りたくない理科室の一つだ。

「み、みんな……」

顔を紅潮させ、筋肉を痙攣させ、己の限界に挑戦するモエアスリート達。
その姿は限りなく美しい。
シンジはあまりの光景に息を呑む。

「ぎゃあ!」
一人、筋繊維断裂。

「ごが!?」
一人、肩脱臼。

「はぐっ!」
一人、腰椎破損。


次々と散っていく仲間達。限りなくおぞましい光景だ。

「もうやめてよみんなっ! なんでこんなっ! なんでそんなに頑張るのさ!」

次々と犠牲者が出ているのに止まることのない雄たけび。
「なぜ、なぜ!」シンジは叫ぶ。だってそんなに頑張ってもただ自分の下着が見えるだけ。
たった一枚の布切れの為にここまでする意味が分からない。

「なぜなんて決まってるじゃないか碇」
「ケンスケ……」
「そうや、そこにパンツがあるから。漢っちゅうもんはそれで十分なんや」

うわぁ、格好良いようで格好悪ぅ!

「それにそのパンツがシンジのなら尚更や。たとえ命と引き換えにしても見なあかん」
「と、トウジ……」
 
唖然としてシンジは彼を見た。「アンタバカぁ」という想いが全く浮かばなかったといえば嘘になる。
しかしこの時期の男子など成分の半分は性欲で出来ているのだから少女の下着が見られるなら「スタンド バイ ミー」ぐらいの冒険は軽くしてしまう。
しかもそれが美少女なら尚更だ。

ギチギチギチギチ!
 
彼らの拘束具が音を立てる。

「ぐぬぬぬぬぬ!」
「ぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁ!!」

トウジ、ケンスケの拘束具が動き出す。
シンジとの距離は5メートル。ファイト一発のような匍匐前進。
トレーラーを引っ張っているかのような体勢で前に進む二人。
四肢の拘束具は限りなく重い。

「す、凄い……」

思わず感心するシンジ。
しかし、

「ま、待ってろよ碇」
「ちゃんと拝んでやるで、シンジのパンツをな」

人の心配をしている場合ではなかった。
障害物で今は隠れているが、それを乗り越えればもう邪魔するものは何も無い。
シンジのスカートは足の付け根までめくられている。
彼らが到着するころには間違いなく純白の聖域が拝めるに違いない。

「だ、だめだめだめ!二人とも来ちゃだめだよっ!」

動かない体の代わりに首を振って必死に彼らの行動を拒絶する。
だがそれは儚すぎる抵抗。むしろその小さな抵抗が可愛らしい。

「ぐあ……」
「うぅ……」

進む、進む、二人は少しずつ前に進む。
三メートル、二メートル、一メートル。距離は着実に縮む。

「も、もうそれ以上来ないでよっ、ばかぁ!」

獣のような荒い呼吸で自分を目指す二人。
身体を犯されるのではないかという恐怖がシンジを襲う。
必死になって叫ぶが二人が止まるはずもない。

ブチン!
だがその想いが届いたのであろうか。

「え?」
「ぐぐ……」

羞恥に喘ぐシンジにも聴こえる不気味な音。
疑問の声をあげ、視線はトウジの方へ。

「くく、どうやら腕がいってもうたみたいや」

肘が不思議な方角を指している。

「へへへ、右に同じく」

ケンスケもかよ。(笑)
普通なら絶叫と共に脱落してもおかしくはない。
だが二人は進んだ。

「もうやめてよ二人とも! それ以上は死んじゃう! 死んじゃうよ!」

二人は止まらない。

「ふふふ、今の彼らはまさにモエの力によってリミッターを解除している。興味深い、興味深いわぁ!」

ノートPCのキーボードを叩きながら興奮を抑えきれずに叫ぶリツコ。

「あががががが!」
「ぐぐぐぐぐぐ!」

「もうやめなよ! 本当に死んじゃうよ! そんなに無理しなくてもそんなに見たいんなら見せてあげるから! だからもう無理しちゃだめだよっ!」

うわぁ……、それはかなりツボだなぁ。

「あががががが!」
「ぐぐぐぐぐぐ!」

って聞いちゃいねぇよ。
もう筋力のほうに全能力を使いすぎて聴覚までフォロー出来ていないんだね。
ちゃんと聞いていればこれ以上苦労せずとも凄まじい役得を得られたというのに。

「ぬぐぐぐぐ!」
「ももももっ!」

いや、さすがにマ行は力が出にくいと思うけど……。
しかし距離は一メートルを切った。ついに障害物を越えた。
いざ越えられると弱気な気持ちが、羞恥の感情が巻き起こる。

「いや、いやぁ……」

掠れるような声でシンジは言った。
すでにスカートはシンジの秘密を隠していない。

「おおっ、これが」
「そうか、これやったんや……。ワイはこのために生まれてきたんや」

野生の獣のような視線で二人は見た。
そこには彼らのアイデンティティがあった。(意味わかんねぇよ)
すらりと伸びながらも程よい肉付きの健康的な太もも。
そこから視線を上げていくと見える秘密の花園。
純白の布に包まれた至高のデルタ地帯。それを見るためにどれだけの同胞が散っていったことか。

「も、もうやだよぉ、そんなに見ないでよぉ」
 
顔を真っ赤にしてシンジが言った。視線に当てられて身体も赤く反応している。

「ふふふ、まずは第一段階の到達者が出たわね。さあ次は第二段階よ。
更なる力を出してその拘束具を破壊しなさい。そうすればシンジ君の身体は貴方達のものよ!」
 
狂ったようなテンションでリツコが言った。

「そ、そうや、これさえどかしたらワシはセンセと……」
「碇の好きなところを触れる。……碇の」
「え? な、なに? ……トウジ、ケンスケ?」


「「う、うぉぉぉぉおおおおおおお!!」」


今まで以上の気合い、雄叫び。
荒れ狂うオーラすら見えてきそうな、白目だけのキレた表情の二人。
今まさに二人は限界を、いや人間を超えた。

「い、いや、いやぁぁぁ!」

絶対に二人はあの拘束具を打ち破る。そうシンジは直感した。
そしてその通り、トウジたちは……。

「あんたらにシンジは渡さない。……渡すもんか!」

進み出る二人の顔面を手で鷲掴み、その間から這い出るように現れた影。(BGMはThe BeastUでお願いします)
アスカは拘束具をものともしない動作で二人を後方に吹き飛ばした。

「ぎゃあ!」
「く、くそぉ、あと少しで碇とっ!」

二人は拘束具の引く力とアスカの人知を超えた力で後方の壁へと叩きつけられた。

「シンジは……、シンジはアタシのものよぉぉぉぉぉぉ!」
 
まさに暴走。アスカ、暴走。である。

「す、すごい、凄いわ! 筋力に比例するとはいえ、アスカの今の拘束具の負荷はおよそ2t。
単純計算で四肢に500ずつ。それをものともしないなんて! 私達は……、私達はなんて恐ろしいものを作ってしまったの!?」

発言の意味はわからないが、驚愕は伝わってくる。
そもそも人間として筋力の限界が片腕500キロってありえないだろ。

「あ、アスカ……」
 
心なし嬉しそうな、安堵の声を漏らすシンジ。
トウジたちだと流石に恥ずかし過ぎるがアスカならまだいい。
それに危機を守ってくれて感動すらしている。たとえそれが邪な想いなのだとしても。
 
(アスカが拘束具を破壊出来る可能性はかなり高いわね。なら実験的にさらに負荷レベルをあげましょう)

PCを操作して負荷レベルを110から120に上げた。
アスカが出せる筋力は簡単に言ってMAX500なのだ。それがその拘束具を破壊するのに600の力がいるということになる。

「ぬ……、ぬぬぬぬぬぬっ、……ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!」
「アスカ!」

耳から、鼻からと血が出てくる。頭の血管すら切れてもおかしくない。
筋繊維が壮絶な勢いで千切れていく。それでも力は強まる。


「ぅああああああああああああああっしゃあああああ!」


そしてついにアスカは拘束具を吹き飛ばした。
 
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
「あ、アスカ……、大丈夫?」

満身創痍のアスカ。すでに身体が燃え尽きて灰色になっている。
アスカを持ってしても、いやそれぞれの筋力に比例しているからこそ、アスカですらこの状態なのだ。
尚且つ他の者よりも負荷が高かった。

「アスカ……?」
その言葉に答えずゆっくりと近づいてくる。
目の前に来た。これでもう後は何をしても良い。

「あ、アンタは……、アタシのものなんだから……アタシの」

そう言ってシンジをふわっと抱きしめる。
それだけ。

何をしても良いはずなのにアスカはシンジを抱きしめるだけだった。

「アンタは……、アタシのものよ」

「ぅん、……うんっ、……アスカぁ」

狂おしいほどの咆哮を、切なくなるほどの情熱を見せられたシンジ。
アスカの想いを確かに感じ取り涙を流しながら頷いた。
この作品はLASの方向に動き出したのだ。
シンジの言葉を聞いて抱擁の力が緩み、肩にまわされた腕の力がなくなった。
そして満足げな笑みを浮かべてシンジに寄りかかり、潰えた。

「あ、アスカぁぁぁぁ!」

惣流・アスカ・ラングレー、散る。

「邪魔、どいて。」
「へぐ!」

完全なる灰色になって消え去ろうとしたアスカを横に弾き飛ばす者。
LASフラグ終了の合図。
綾波レイは拘束具を外してきたとは思えない涼しい顔でシンジの前に立った。

「あ、綾波さん、どうやって……」
「拘束を解除したわ」

どうやら力ではなく技で拘束具をはずしたらしい。
それに時間がかかり今まで表舞台に登場していなかったのだ。

「カヲル君は……?」
「アレは一番初めに沈んだわ」

レイの指差す方向にはカヲルの死骸があった。

彼の能力は見切りと素早さである。
その能力ゆえにアスカたちと恐らく対等以上に渡り合えるのだが、それが制限されれば一溜まりもない。
純粋な力の差で言えばアスカとはベススライムとスライムぐらいの差がある。
拘束による素早さ制限によってまずアスカとレイの集中打をもろに浴びた結果。
ゲームスタートと同時に潰された蚊のような状態になったのだ。

「だから勝者は私。……碇君」

レイはヒシっとシンジに抱きついて離れない。

「末端の制御盤を弄っての勝利ね。本来なら許容できないけど他の被験者で十分データは取れた。許してあげましょう」

クールに苦笑したリツコは二人の行為を粋な計らいとでも言うように黙認して理科室をあとにする。

「あ、あの、リツコ先生? ぼ、僕、いつまでこの格好を? っあ、綾波さん! そ、そこ触っちゃダメだよ!」
 
必死にリツコに助けを乞うが、レイの攻撃もそれに伴い激しくなってくる。

「先生っ! 行っちゃダメです! せめてこれをはずし……んっ、ふぁ!
や、やだ、どこ触って……、ひぃん! 綾波さん、そんな舐めちゃだめっ、や、ホントに……、あっ、あああぁ!」

「ふふふ、頑張ってねシンジ君。……あと五分で外れるはずだから」

レイの口撃にてんてこまいで、もはやこっちの声など聞こえないだろうが一応伝えておく。
理科室の扉を閉めた後もシンジの悲鳴、嬌声は廊下に微かに響いてきていた。



 



 




 

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