おまけ四
「そうですか……」
概ね成功だったのではないか……。
セレナイトはプロスの報告を聞いて思った。
負傷者32名、死者18名。サツキミドリの被害状況は中程度、補給物資の損害は二割弱。
前回の全滅に比べるれば雲泥の差。
(それでも死人は出てしまった。もっと上手くやれば……)
いや、それは酷というものだろう。
「それよりも艦長を何とかして頂けませんか?」
プロスが溜息混じりに言った。
「えっ、ユリカさん?」
寝耳に水、何が起こったのか……。
今回は艦内での葬式が無い分、艦長とは何かで悩む必要はないはずだが。
「詳しい事は分かりませんが、瞑想ルームに引き篭もっていまして」
幸い木星蜥蜴の攻撃が現在は威嚇程度なので支障は出ていない。
しかしこれから先もあの状態ではさすがに困る。
「先日アオイ副艦長を立ち直らせたその手腕を今回も是非っ」
「そう言われても、何をどうすれば良いのか……。原因は分からないんですか?」
「ええ、私にはとてもとても。艦長の気持ちを推し量るなど出来ませんから」
確かに天真爛漫でどこかネジの抜けているユリカであるので、計算で行動するプロスには彼女の心を理解するのは難しい。
「ただ天河さんと何かあったという噂がチラホラと……」
「そうですか……、分かりました。話を一度聞いてみます」
「そうしてくれますか? いやぁ、助かります」
プロスは拝むように礼を言った。
セレナイトとしてもユリカが何か困っているのなら力になりたかったし、その為の自分でもあったので快く応じた。
「では早速行ってみます。失礼します」
「はい、宜しくお願いします」
にこやかにセレナイトを見送る。
しばらくその後姿を見つめた後、
「いやぁ……、パイロットの腕にコックの腕、それに艦内の保安、人間関係の調整まで……。素晴らしい人材ですねぇ」
しかも超絶美女。これはもう絶対にネルガルのマスコットキャラになって貰わなければ。
プロスの頭の中でセレナに関する様々な考えが張り巡らされていた。
■ ■ ■
「せ、セレナちゃ〜〜ん!」
瞑想ルームで座禅をしていたユリカだが、入室してきたセレナを見ると目を潤ませてタックルしてきた。
「わっ、……ユリカさんっ」
突然のことに驚きながらも、それを受け止める。
ユリカの温もり、感触を感じられて実は凄く嬉しい。
「プロスさんが心配していました。何があったんですか?」
落ち着かせようと背中を撫でながら言った。
一旦身を離して落ち着かせても良いのだが、それはセレナ的にアウトである。
むしろこのままが良い。
「あのね、私、聞いちゃったのっ。アキトとメグミちゃんが付き合ってるって!」
「え、ええぇ?」
初耳だった。
(でもそういえばこの時期、メグミちゃんと仲良くなってたよな)
遠い昔のことであまり覚えていない。(メグミ、可哀想)
何が切欠だっただろうか……。
(確かサツキミドリが全滅して、人が大勢死んだことに落ち込んでいたメグミちゃんと、
ガイが死んで落ち込んでいたオレが何かほわほわっとした会話の後に意気投合して)
細かい会話までは憶えていないが、それで最終的にキスまでしたような。
(でも今回は全滅してないし、ガイも死んでないし。二人に接点なんて……)
「それは誰から聞いたんですか?」
「ミナトさんっ! ていうか艦内の全員がそうじゃないかって言ってるって!」
「そんな……」
「どうしたら良いのかな! セレナちゃん! ここでずっと考えても何も思い浮かばないの!
アキトに聞いてもうるさいっ! って怒られるだけだし、でもアキトはユリカのことが好きなの! 好きだっていうのは分かってるの!
きっとアキトは騙されてるの! メグミちゃんに騙されてるんだよ!」
「お、落ち着いて、ユリカさん!」
「ここのところ暇だからきっと魔が差しちゃったんだよっ!」
「落ち着けっ、ユリカ!」
そう言って強く抱きしめた。もちろん邪まな思いからだ。
強く抱きしめたいというね。
だが同時に効果のある方法でもあり、ユリカは途端に落ち着いた。
「とにかく事情は私がアキトから直接聞きます。ユリカさんはドシっと構えて待っていて下さい。
大丈夫、アキトは貴方のことが好きなんですから」
「そう思う? セレナちゃん」
「はい。だから心配しないで。それに貴方がアキトを信じないでどうするんですか。好きなら相手を信じないと。
それにいつものユリカさんならどんなことがあってもアキトを信じて、好きだって気持ちも全くぶれないで……。
私はそういうユリカさんをとても尊敬しているんですよ?」
「えっ、そうなのっ!?」
あのセレナイトにそんな風に思われていたなんて……。
自然と嬉しくなって、胸を張りたくなる。
「だから元気を出してください」
「わかった! ユリカっ、元気を出しまーす!」
すっかり言葉通りの状態に戻ったユリカは飛び跳ねるように手を上げた。
そして離れていたセレナとの距離を再度縮めてもう一度抱擁した。
「なんだかセレナちゃんって、優しいときのアキトと似てる」
「えっ……」
鼓動が跳ねる。
「優しくて、ユリカが困っていたら絶対に助けてくれるし……」
それ以外にも立ち振る舞いや雰囲気がどうにもアキトと重なることが多い。
さっきの強い口調だってアキトととても似ていた。一瞬、そう思えたからこそ我に返ったのだ。
「そうなるとアレだね。アキトはユリカの王子様……、それでセレナちゃんはユリカのお姫様。セレナちゃんはユリカのお姫様だっ!」
嬉しそうに、本当に嬉しそうに言った。
「これからもユリカがアキトのこととか、ほかの事で困ったら助けてくれる?」
「はい、もちろん」
突拍子もないお姫様発言に驚いたセレナだったが、微笑んでそう答えた。
「私はユリカさんの為なら何でもします。どんな相談事でも乗るつもりです。私の命は貴方の為に」
それが自分の望み、罪滅ぼしなのだ。
「えっ、命……」
ユリカは全身を包むように温かいセレナイトの言葉、強い決意を聞いて知らず頬を染めた。
まさかそこまで言ってくれるとは思わなかった。それに間近で見るセレナイトの美しさにも見惚れていた。
「あっ、で、でもユリカのお姫様だからって、王子様のアキトを取ったらダメだよっ!」
「ククククっ、もちろんです。アキトはユリカさんの王子様だから……。私にその気は全くありません」
それに元々が男なので、男と何か事を起こすなんてありえない。(嘘つけ、おまけ2を見てみろよ)
「さ、後は私に任せてユリカさんは職務に復帰してください」
といってもこれから数週間は暇なわけだが……。
「了解しました、セレナ師匠っ! ビシっ!」
それでもユリカは楽しそうにそう言って敬礼した。
「はぅ……(ユリカ……、萌え)」
それがとても可愛くて、セレナイトの鼓動は酷く高鳴った。
■ ■ ■
食堂は多くの人で賑わっていた。
木星蜥蜴の目立った攻撃がなく暇であるのと、セレナイトが厨房に立っているからだ。
「お姉ちゃん、ラピス、チャーハンが食べたい」
彼女の袖を引っ張ってラピスが言った。
「分かった。チャーハンだな」
嬉しそうにその注文に応じる。いつものクールな表情とは違ってとても生き生きとしていた。
そしてそれを眺めるのがここに訪れているクルー達の目的の一つでもある。
しかもスリットの深く入ったセクシーなチャイナ服(にエプロン)を着ているのだから目の保養にもなる。
「アキト、油をとってくれ」
「…………はい」
傍らにいる弟子はそんなセレナの服装に無頓着なのか、返ってきた返事がとても暗い。
一応、油は渡してくれたが、全身から落ち込んでいる、セレナイトを避けているような雰囲気さえモリモリと発していた。
(本当に何があったんだ……、こいつ)
セレナイトは横目で彼を見た。
厨房で働いているという話を聞いて、すぐに乗り込み、事情を聞こうとしたのだが、アキトの異常な雰囲気に気圧されて何も言えないでいた。
その内にホウメイガールズに捕まって久しぶりのコック業に勤しむことに……。
それ自体は楽しいことだし、その内にアキトにさり気なく聞く機会もあるだろうということでセレナイトも快諾したのだ。
「あぁ、セレナイトさん、素敵ですぅ!」
ホウメイガールズの一人、ミカコが猫なで声で言った。
それにつられて他のガールズたちも斉唱している。特にサユリなどは熱病に冒されているようだ。
実は下腹部も謎の熱病に冒されたように潤んでいるほど。
それだけ今のセレナイトは格好良くセクシーだった。
「ほらっ、手を休めてないでさっさと働きなっ! 腹すかせて待ってる客がたくさんいるんだよっ!」
完成した料理を放っていつまでも硬直している五人にホウメイの叱責の声。
その言葉にビリヤードのブレイクショットの如く弾け跳んで五人が散らばっていく。
「まったく……、アンタが来るといつもこうだ。助かるんだけど、その代わりあの子らが使えなくなっちまう。シーソーゲームみたいなもんだよホント」
「はぁ、すみません」
「謝ることなんてないさっ。ほらっ、それよりも大事な妹が腹すかせて待ってんだから急いで作ってやんなっ!」
ケラケラと笑ってホウメイは自身の作業に戻った。
いや、アキトのところに行った。
「アンタ、なにさっきからぼ〜っとしてんだい。鍋が焦げちゃうだろっ」
「はっ! す、すいません!」
慌てて調理を再開した。
(ホント、何やってんだアイツ……。メグミちゃんと何かあったのか……。早速喧嘩したとか)
理由を聞こうにもこんな大勢の前で聞くわけにはいかない。
(あとでシュミレーター訓練にでも誘って、そこで聞き出すか……)
そういうことになった。
それからしばらくの間、厨房で働き続けるセレナ。
ラピスがチャーハンを食べている際はテーブルに座ってその姿を嬉しそうに見ていたりしたが、(またその姿が美しくも愛らしくもあり多くを魅了した)
それ以外は働き続けた。
その間ももちろんアキトの雰囲気は暗い。
「あ、あのっ、セレナイトさんっ」
食堂でセレナの料理を食べていたジュンが顔を赤らめ近づいてくる。
どうした? とセレナは訊ねる。もしかして不味かっただろうか。
「そ、そんなことないですっ! 貴方の作るモノは何でも美味しいです!」
憧れのお姉さんに告白する近所の男の子の態度だ。
「そうか、ありがとう」
やはり美味しいと言ってくれるのは嬉しい。自然と微笑してしまう。
そしてそれで益々ジュンの頬が赤く染まる。
「えっと……、あのですね、実はセレナイトさんに頼みたいことがあって」
「頼みたいこと?」
「は、はいっ、僕にエステバリスの操縦を教えて欲しいんです!」
「エステの……?」
これまた突拍子のないことを……。
「僕、一人前の男になりたいんですっ」
「いや、でもお前、副艦長だろ? 前線に出るわけでもないのに……。一人前の男なんてエステ乗りじゃなくても副艦長を極めれば充分に」
「折角IFSをつけたんですから、有効に利用したいんです! 万が一、人手が足りないときにエステバリスに乗れる人間が一人でも多いほうが良いと思いますし」
ちゃんとした副艦長としての計算である。(もちろん邪まな想いからくる計算である)
「…………なるほど、そういうことなら。私でよければ教えてあげるよ」
快く応じた。遠くで顔を青ざめさせているアキトには気がついていない。
「おうおう、それならオレも参加させてもらうぜ」
そう言って腕まくりで現れたのはリョーコであった。
「お前が凄腕だってのは聞いた。戦闘の映像も見せてもらった。是非とも手合わせ願いたい」
地球でのセレナイトの戦闘を見せてもらった。しかも二人乗りであの動きである。
神憑りと言って良い腕前だ。
「分かった。じゃあリョーコちゃんも一緒に」
「りょ、リョーコちゃん?」
いきなり親しみの篭ったような呼ばれ方をされて頬が染まった。
「あ、ごめん、つい……」
昔の呼び方が出てしまった。
「べ、別に良いけどよ……」
リョーコも満更ではないようだ。
「あともう少しで上がるから、その後に特訓をしよう。そうだ、アキトも一緒にどうだ?」
ついでに隙があれば話を聞こう。
「……いえ、俺はいいです」
酷い低テンションでそう言った。
「そ、そうか……」
あまりの食いつきの悪さにそれ以上何も言えなかった。
■ ■ ■
その後、約束通りシュミレーターで訓練を開始する。
ジュンには基本的な訓練を、リョーコには実戦的な訓練を施す。
その圧倒的な腕前にリョーコはいたく感心し、心酔していた。そしてこれから更なる特訓の相手となるよう懇願してきた。
「もちろん、ナデシコのパイロットの技術が向上することに協力は惜しまないよ」
包容力のある微笑みでそう言った。
無論、そのあまりの美貌でリョーコの心臓は激しくのた打ち回る。
そしてジュンの方もさすがに軍人なだけあって、驚異的とは言えないまでも地道なステップアップが望めそうだった。
それに実直な分、セレナイトの指導に良く従って飲み込みも早い。
「緊急のパイロットとしては最高の人材になりそうですねぇ」
通りかかったプロスが嬉しそうに言ったほどだ。
■ ■ ■
それから二時間ほどして、セレナは自室でラピスと戯れていたが、
さすがにそろそろアキトの話を聞かなければと意を決して彼の部屋を訪ねた。
「せ、セレナイトさん……」
驚いたようにそう言ったが、ちゃんと室内には招いてくれた。
テレビにはゲキガンガーが映っていた。布団にくるまってずっとこれを見ていたらしい。
「なんだ、私の誘いを断ってこんなものを見ていたのか……。見るなとは言わないが、せめて特訓ぐらい顔を出して欲しかったな」
それが終わった後でもいくらでも見られるのだから……。
「す、すいません……」
ドス暗い表情で謝った。
「いや、べ、別に責めてるわけじゃなくて……」
(や、やり辛いなぁ、こいつ)
そんなことを内心思う。
しばらくの間、お互い無言だったが、いつまでもこのままでいるわけにはいかないのでセレナが口を開いた。
「それでどうしたんだ? 最近元気ないけど……」
何でも相談して、頼ってきなさい。そんな安心感を与えるような雰囲気で言った。
「………………」
しかしアキトは無言……。
「アキト……?」
もう一度訊ねても、
「………………」
答えはない。
「何か言ってくれないと分からないだろ? 私に力になれることがあるなら言って欲しい」
大切な弟子なのだから。
それにユリカにとっても大切な人である。
こんな状況がいつまでも続いていたら、隙が生まれて戦死することだってありえる。
「……メグミちゃんとのことか?」
ついにセレナは核心に迫った。
「メグミちゃん?」
「そう、……なんかお前、メグミちゃんと付き合ってるって噂になってるみたいだぞ?」
「そ、そんなっ、違いますよっ! ただ俺はメグミちゃんがサツキミドリに死人が出たことで落ち込んでいるのを慰めただけで」
その後に結構な仲になっており、メグミとしてはアキトを一目置く存在だと認識している。
アキトはそのことに気がついていないが。
「そうか……、良かった」
セレナイトが安堵の息を吐いた。
恐らく前回と同様、メグミとは最終的に結ばれる事はないと思うが、
自分が介入している時点で色恋沙汰などの瑣末な問題に何かしらの影響が出るかもしれない。
最悪、ユリカと結ばれないということになったら目も当てられない。
「鬱だ。死のう」ということにだってなり得る。
だから出来る限り障害は早期に取り除いて、ユリカへの一本道にしておきたかった。
「ユリカさんも心配してたぞ? お前がメグミちゃんと付き合ってるかもしれないって。アキトが好きなのは私なのにって」
苦笑しながら言った。
「お前達は似合いのカップルなんだ。今は紆余曲折あるかもしれないが、最終的にはきっと結ばれる。
だから今のうちにもっと大人になって、私のもとでたくさん修行して、彼女を守れる一人前の男になれ。私はその為の手助けをいくらでも……」
「違います……」
セレナの言葉にかぶせるようにアキトが言った。
「えっ……?」
目は前髪に隠れていて見えない。
「俺とユリカはそんなんじゃない。……俺はユリカのことを何とも思っちゃいない」
「そ、そんな……、でもそれはまだ自分の気持ちに気がついていないだけで」
「自分のことは自分が一番分かっています! 俺が好きなのはセレナイトさんですっ!」
うわっ、言っちゃった! この段階で? せめて火星から戻ってきたぐらいの段階で言ってよ。
ここで言われたら益々展開がカオスになってきちゃうよ。(涙)
「俺はユリカのために頑張るんじゃない! 貴方のために頑張ってるんですっ!」
激情が暴発してセレナイトの肩を掴んだ。
「きゃあ!」
そしてそのまま彼女を押し倒す。
ちなみにセレナとしては男っぽい声を上げているつもりだが、悔しいかな身体は超絶美女なので自然と可愛い声になってしまう。
「俺は貴方のことが好きなんです!」
ずっとずっと、他の人間に好意を示されたり、ルリとキスをしたりと、人気者のセレナイトを見て胸が張り裂けそうになった。
このまま頭がおかしくなるくらいならいっそのこと……。
「ちょ、ちょっと、落ち着け、アキトっ、ま、待って、ん、んぅ!?」
セレナの唇がアキトのそれで塞がれる。馬乗りのように覆いかぶさられた状態。防ぎようがなかった。
「んっ……、んん、……ん」
荒々しい雄の口付け、そんな感じだ。
愛玩用であった身体にその攻撃は酷なもので、抵抗らしい抵抗が出来ない。
(自分自身にキスされて感じるなんて……)
最低だ、オレって……。と落ち込みたくなる。
でもそんな間さえ与えないアキトの攻撃。
口付けを止めてセレナイトの服を剥いで、露出した下着の上から胸を揉みしだく。
「あっ、……アキト、や、めっ、……んんっ」
エステ乗りとしても超一流だが、感度の方も超一流なのでとても振りほどけない。
アキトの思うまま、その美しい胸を、陶磁のようにきめ細かい肌を蹂躙される。
「セレナイトさんっ、セレナイトさんっ」
「あんっ、こ、こらっ、やめ、……ぅう! くぅ!」
自分の愛撫であのセレナイトを思うまま鳴かせている。
セレナイトを征服しているのだ。
「あ、アキト……、も、もう、本当に、やめっ」
これ以上は本当に拙い。このままではアキトの性奴隷にされてしまう。(そこまでかよ)
渾身の力をかき集め、アキトを弾き返した。
「わ、わぁ!」
背中を壁にしたたかに打ち付けるアキト。
「はぁ、はぁ、はぁ……」セレナイトは荒い呼吸のままその姿を見た。
胸を両腕をクロスして隠しているそのさまは完全に乙女のそれである。
「やっぱり……、やっぱり俺なんてどうでも良いんですねっ」
「な、何を……」
「ルリちゃんにキスをされても何も怒らないくせに、俺にされたらこんな風にっ」
「い、いや、そんな……」
それはだって……ねぇ?
「くそ、くそっ、くそぉ!」
ぶつけようの無い怒りがこみ上げて涙を流すアキト。
そして再びセレナイトに襲い掛かった。
「えっ、またぁ!?」
さすがにもう無いと思っていたのに、もう一回来るの?
そういう感じだ。
「ほ、本当に落ち着いて、アキトっ。ちゃんと話し合おう」
必死にそう言うが、聞く耳など持たない。
アキトはまたセレナを押し倒した。
(ああ……、このままオレは自分に貞操を奪われるのか……)
そんな諦観の念さえ浮かんだ。
(でも……変に他の男にヤられるよりマシかな)
男とするなど気持ち悪いことこの上ないが、自分ならまだ我慢出来そうだ。
だけどそれで最後までいったらユリカに何と言えば……。
(そうだっ、こんな所でそんなことになったら、オレの計画がっ)
ユリカを陰ながら守って、幸せにしちゃうぞ♪ 作戦が台無しである。
何とかして逃げ出さなければ……。
だがそのチャンスは意外とあっさり到来した。
「アキトぉ! ブリッジが大変らしいの! クーデターが起こったって! 一緒に来て!」
ユリカが相変わらず遠慮無しに部屋に侵入してきた。
「…………え?」
そして衣服の乱れたセレナイトと、その彼女に馬乗りになって襲っているアキトの姿を遠慮無しに凝視した。
「……………………」
「あっ、……ユリカさん、これはっ。(汗)」
「………………セ」
「待ってっ、落ち着いてっ、話を聞いて!」
「………………セ」「ユリ」
「セレナちゃんのバカぁ!!!」
ワンワンと泣いてユリカが部屋を出て行った。
「そ、そんなぁ……」
その余韻の中でセレナイトが呟く。とても悲しい声。
「なんで……、なんでこうなるんだよぉ!」
哀愁漂う悲痛な叫びだが、
それさえも可愛らしいのは彼女に与えられた罰の一つなのだろうか。