おまけ五



ウリバタケが不満なのはまさにそこである。
今時、このご時世、小学生だってマセた男女交際を行うだろうに超一流の大人が集う戦艦の交際ルールが手を繋ぐまでとは。

「俺たちは小学生以下、幼稚園児かってーの! ここはナデシコ幼稚園かっ?」 
「しかしそれはですね、契約書にも……」
「いちいちこんな細かい契約書を読んでサインなんてするかっ!」
 
セレナの困惑げな言葉に唾を巻き込むようにして捲くし立てるウリ。
血眼である。

何せ目の前にはそのルールを打ち破ってでもモノにしたい美女がいるのだ。
それに確かにウリさんの言うとおり契約書の規約は細かいし、男女交際に関しての記述は更に小さく表記してある。
明らかに悪意のあるものだ。
 
「そんな悪意なんて……」
「あるっ! 絶対にあるっ!」
「は、はぁ……」
 
ウリバタケの断言に返す言葉もない。
そもそもなぜ自分が矢面に立ってこんなことを……。
 
(まあユリカがいないんだから仕方がないか)
 
彼女が誤解からどこかに走り去ってしまったため、急遽、保安部所属でもあるセレナが叛乱の鎮圧に当たった。
 
(アキトのこともある……。問題は山積だっていうのに)
 
彼も現在ここにはいない。
先ほど自分が仕出かした事の重大さに気づき、部屋で膝を抱えている様子だ。
 
(それよりもこっちが膝を抱えて落ち込みたいよ)
 
目の前の小事よりもよっぽどの大事を抱え、セレナの頭はいっぱいだった。
それでもやはりウリさんの憤まんはやるかたない様子で押し黙ったセレナが敗北したと見て、プロスに標的を変えていた。
 
(っていうかなんでこの子たちまで……)
 
ウリの激昂に追随する形で激しい怒りを表出しているホウメイガールズ達。
プロスを親の敵のような憎しみの目で見つめ、時々セレナを獣じみた情欲の目でねめつける。
つまりはまあそういうことなのだが、セレナはもちろん気がついていない。
 
「男女交際大いに結構。しかしそれがエスカレートしてしまうと困るんです。
恋に身を焦がして仕事に身が入らなくなってしまうこともありますよね?」
 
あ、上手い。
セレナイトは思った。
身を焦がして中身がなくなり、仕事に身が入らなくなるということだね!?
 
「それに結婚するとお金、掛かりますよね? それに妊娠なんてしてしまった日には……。ここは一応、戦艦でもありますので」
 
決して民間人がうっかりと乗り込んで生活しているような艦ではない。
作戦行動中の戦艦なのである。
そのクルーが幸せそうに微笑ましくお腹を撫でるなんてことになったら……。
最上級の笑えない冗談である。
 
「うるさい! そんなものは詭弁だっ! 俺達は最高の腕を買われてナデシコに着たんだ。
恋の一つや二つで鈍るようなヘタレじゃないんだよ!」

「「「そうだそうだっ!」」」

ホウメイガールズが斉唱した。それにリョーコやジュンも追随する。
……ってジュンはそっちにいたらダメじゃん。

「とにかくこの項目は撤回、削除してもらう」
「しかしですね。……すでにサインしてもらっていますし」

「いいか? 俺らは最高の仕事をするっ。そしてどんな苦難も皆と協力して乗り越えてみせる。
そのために我慢するべきことならいくらでも我慢できよう」

「では……」
「だけどな……、どんなにいろんなことを我慢して、やめようと思ったって……」

ウリバタケが渋い口調で言った。



「愛し合うことだけはやめられないんだ」


め、名言パクりキター!!!



「いいか悪いかは知らないがとても強い力だ。核融合なんて目じゃない」

さらにパクリ名台詞が続いていく。
プロスはさすがに平常の態度を崩し、飽きれている。
形成は完全に逆転した。

(なんだよ、まだ時間掛かるのか)

セレナはむしろそれどころではない。早くユリカを探して誤解を解かなければならないし、
アキトへの対策も講じないといけない。それに火星での計画に関してウリバタケとの調整もあった。
他人の褌を借りた演説をいつまでも聞いている場合ではないのだ。

「ああもう、分かりました。どうせなにを言ったって陰で規則を破る人間は出てくるでしょう。
なら禁止しても無駄なこと。キチンと分別を持って、そういう行為の際には避妊を心掛けて、
仕事の支障にならないように気をつけてくれさえすれば、大人の交際を認めます」

「せ、セレナイトさんっ、そんな勝手は」

「私が責任を持ちます。この艦の士気を決して乱さないよう細心の注意を払うようにしますので。
私はそんな瑣末なことよりも他にやることがたくさんあるんです」

苛立ちさえ滲ませるようなセレナイトの声だった。

「そ、そうですか……」

彼女に強い口調でそう言われてはプロスとしてもむげには出来ない。それに譲歩できる提案でもあった。

「ではここはセレナイトさんの仰るとおりに」
「ありがとうございますプロスさん。この借りは必ず。それではこれで良いですね? ウリバタケさん」
「あ、ああ」

あまりにもあっさりと事が進んだ。そしてセレナの煩わしげな態度、
それに妖精のような美女の口から出た「避妊」という言葉。これだけでティッシュ十枚はイケる。
ホウメイガールズも下半身がてんやわんやになっている。

(きゃあ! セレナイトさんの口からあんな言葉がっ!)
(ということはセレナイトさんはそういう行為を知っているのっ?)
(もう経験済みなのかしら?)
(だったら手取り足取り教えて欲しい!)
(あぁん、お姉さまぁ!)

ということらしい。


「それではこの件はこれにて終了ということで。私は他にやることがあるので失礼します」

セレナイトはそう言うと足早にブリッジを後にした。
少しして彼女の消えたその場は戦勝祝いのような賑やかな歓声が響き、その後に更に木星蜥蜴の攻撃によって賑やかになった。





■   ■   ■




「まったく……、悪い事は重なるとよく言ったものだ」

前方に戦艦30、バッタ無数。
その迎撃に向かうエステバリス三機。セレナイト、アキト、リョーコの三人だ。

(さっきの叛乱にしても今回の襲撃に関しても、意外に忘れているというか、起きて始めて思い出すな)

サツキミドリの件はさすがに強烈に記憶していたが、今回の叛乱や襲撃のことは想起出来ていなかった。
だからまだユリカの誤解を解けないでいるし、

「……………………」

アキトはこの通り、危ない眼をして前方の敵を見据えているだけ。

(早く終わらせてユリカのことと、こいつのことを片付けないと)

迅速に軌道修正が必要である。

(ついでにここ最近の鬱憤を晴らしてやるっ)

そんな八つ当たり思考を伴いながらセレナのエステバリスが宇宙を駆けた。
ラピットライフルを無遠慮、無差別と言って良いほどに全方向に乱射する。

「お、おいっ」

錯乱したのかとリョーコが焦るのも束の間、それらは信じられないぐらいに正確にバッタに命中し四散していく。

「す、すげぇ……」

感嘆するしかなかった。

「………………」

アキトのほうは無言で黙々と一体一体丁寧に潰していく。

「おらおらおらぁ!」

リョーコも負けじと暴れまわる。
今のところまだ彼女の方が操縦技術は上である。




それぞれが乱戦を演じながらバッタの霧の中を突き抜け、
敵戦艦の破壊を試みる。
しかし、

「なるほど、フィールドか……」

接近に比例して戦艦のフィールドが増大した。
これではエステのライフルは効かない。

「どうするよ、隊長さん」

リョーコが試すように聞いた。
今度はどんな神業でこれを切り抜けるのかということである。

「眼には眼を、フィールドにはフィールドを」

不敵な笑み(それさえも魅惑的で美しい)でそう答えたセレナイトは、エステバリスを包んでいるフィールドを拳に集約させた。

「ば、馬鹿っ、そんなことしたら流れ弾一発で!」

宇宙のデブリと成り果ててしまう。

「当たらなければ問題ない。まあ、見ていろ」

余裕の表情を浮かべて戦艦へ突撃する。
ミサイルポッドから発射されるミサイルを紙一重でかわし、敵艦のフィールドを自身のフィールドで相殺、破壊しながら突き進む。
そしてそのまま「シャァァイニング、フィンガァァ!」と叫びたくなるような拳を打ち放つ。
轟音と共に破壊されたその部分にラピッドライフルを連射し、はい完成。
セレナ機が離れたと同時に敵戦艦は爆散した。

「す、すげぇ……」

やはり感嘆するしかなかった。

「一番効果的なのは今のやり方だか、一番難しいものでもある。一撃でも良いのを喰らうと即死だからな」

だからお前達には……。そう口を開こうとしたセレナの前をアキト機が横切った。

「ちょ、お前なにをっ」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

セレナの真似をするようにフィールドを拳に集約して敵戦艦に突っ込む。

「お前にはまだっ」

これは攻撃力が高まって簡単にフィールドを突き破れるというメリットがあるが、
相手の攻撃を喰らうとあっさり死亡フラグが立ってしまうというデメリットもある。
しかもまだ未熟なアキトがやるにはデメリットの方が大きかった。
だから二人には地道に助走をつけてナイフで一点破壊をやって貰おうと思ったのだが。

「うぉぉぉぉぉぉ!」

確実に死亡フラグが立っている雄叫びを上げて、なりふり構わず突進している。
フィールドを突き破り、駄々っ子のように拳を戦艦にぶつけ、ライフルを撃ち放った。
セレナのように華麗ではなく、泥臭さを感じる手際であったが彼女に師事しているだけあって見事なもの。
アキトの戦艦の撃破を確認しないまま、次の獲物へと向かう。
拳にフィールドを集約したまま。
そして敵戦艦も今の光景を見て学習したらしく、エステに向かって無数のレーザー、ミサイルを放ってくる。
必殺の攻撃が無防備なアキトのエステバリスに襲い掛かっているのだ。

(ひぃぃ! アキトが死ぬぅ!)

心の中でムンク的表情を浮かべるセレナイト。
なにこの自暴自棄。
取り急ぎ何とかしなければ……。

「アキトっ、落ち着けっ! アキト!」

しかしそう言ってもうんともすんとも言わないので(すん、とか言われたら舐められてるのは間違いないが)仕方なく、超本気を出して戦艦の殲滅に当たった。
それはナデシコクルーが本当に見惚れ、崇拝にすら至るほどのネコミミ、いや、本気モードだった。





■   ■   ■




「アキトっ! どういうことだ!」

格納庫、エステから降りたアキトを待ち構えていたのは怒りの感情を顕わにしたセレナイトだった。
 
「無事だったから良かったものの、お前にはまだあれは早い。もっと私のもとで修行を積んで、それからなら」
 
この怒りは心配の表れ、それがありありと感じられる。
 
「………………」
 
だが当のアキトは無言、無表情で視線を逸らしたまま、少しの間、立ち止まっていたが、
 
「まだ話は終わってないぞ!」
 
セレナイトの制止を振りほどいて場を離れようとする。
 
「ま、待てっ!」
 
「うるさい! もうオレに構わないでください!」
 
肩に掛かる彼女の手を弾いた。
 
「えっ?」
 
ドクン!
セレナの鼓動が跳ねる。
アキトにここまであからさまに拒絶されたのは初めてだった。
驚き、切なげな表情で彼を見る。
 
「………………失礼しますっ!」
 
アキトも辛そうな表情を浮かべたが、それを振り払うように首を振ったあと、その場を走り去った。
 
「そんな……」
 
後にはセレナと、今回の戦闘についての会話がしたかったのにお預けされているリョーコの姿。
そしてアキトとの喧嘩で自分にもセレナをモノに出来るのではという喜びで満ち溢れている整備士たちの満面の笑顔が無数にあった。
今にも拍手が巻き起こりそうだった。






■   ■   ■





「はぅ〜、どうしようラピスぅ」
 
ベッドで悩ましげな苦悶の声を上げて転がるのはセレナイト。
 
「分かんない」
 
同じく自分のベッドでそれを真似しながら答えるラピス。
 
「ユリカにちゃんと事情を話したのにまだ怒ってるみたいだし、アキトはオレのことが好きだって言うし、かと思ったら無謀なことして死のうとするし」
 
大誤算、大誤算だ。
どうすれば良いのか全く分からない。

ただ自分は皆の幸せのために一線を引いたところから、良い方向へと向かうように尽力するだけのはずなのに……。
それなのにいつのまにか自分が渦の中心にいる。
 
「どうしよう……、どうしよう」
「どうしよう……、どうしよう」
 
セレナの言葉と行動を真似し続けるラピス。
なかなかに微笑ましい光景。しかし微笑ましいのは見た目だけで、セレナの置かれた現状は決して微笑ましくはない。
あちらを立てればこちらが立たず、二者択一だが捨てる方の代償も大きい。
 
「どうしよう……、どうしよう」
「どうしよう……、どうしよう」
 
答えは出ない。
人間関係に明確な答え、正解などないのだ。
 
「分かった! 分かったよラピス!」
「…………どうするの?」
 

「保留するっ!」
 
結局はそういうことになる。
でもそれを輝かんばかりの笑顔で言うセレナイトはかなり可愛かった。




■   ■   ■




「どうせしばらく考える時間もあるんだ」

そう言ってセレナイトが披露したのはこれからの予定だった。
火星到着後、まずはオリュンポス山にあるネルガルの研究施設に向かうだろう。
その際、恐らくアキトは別行動でユートピアコロニーに向かうはず。
メグミを連れて行くかどうかは分からないが……。それでイネスを回収してきてもらう。
 
もし無理だった場合は自分がそれに対応する。もちろん無駄な人死を避けるためにナデシコをコロニー上空には近づけない。
その後、どういう風になるかは分からないが、折り返すように火星から脱出するのは不可能であるから、
何度かの戦闘を経て北極圏にあるネルガルの施設に向かいクロッカスを見つけ、何だかんだでフクベが犠牲になってナデシコはチューリップに入るのだ。
 
「ただそこでオレは別行動をとる」
「別行動?」
「……そう」
 
前回はアキトとして、自分もナデシコと共にチューリップに入った。
 
「だけど今回はオレはイネスさんと一緒にエステでチューリップに入る」
 
先にナデシコを送り、その後に時間差で自分も続くのだ。
場合によっては逆でも良い。
 
とにかくイネスとともにナデシコとは別の場所へジャンプする。
その為にウリバタケにナデシコのエネルギー圏を離れても長時間活動できるエステバリス用のバックパックを作って貰っていた。
 
『お願いしますウリバタケさん。貴方だけが頼りなんです』
 
長時間は難しいと渋っていたウリさんの腕に胸を押し付ける作戦が功を奏したのだ。
胸は使いようであった。
そしてそれを使いジャンプする。それがセレナイトの計画だった。
 
「予定では地球に辿りつくつもりだが」
 
それはイネス次第ということになる。
むしろそうして貰わなければ困るのだが、彼女ならば大丈夫であろう。
そしてナデシコはおよそ八ヶ月後にチューリップから出てくるのであるが、自分はそれよりももっと早く出てくる。
そうすることによって得られた猶予期間で様々な活動を行なうのだ。
 
「だったらラピスも行く」
「ごめん、悪いけどそれは出来ない。その状況でラピスをエステに乗せる口実は無いからな」
「む……」
「心配するな。チューリップの中にいるのは一瞬、その間に一年経ってるんだから一週間もしないうちに会える」
「………………分かった」

渋々納得したようだ。

「そういうわけで、その間に色々なことを考えさせて貰うさ」

効果的なアキト、ユリカ対策は思い浮かぶのだろうか……。





■   ■   ■





その後、事態は大よそセレナイトの予定通りになった。
アキトは別行動でメグミを伴いユートピアコロニーへ……。
その際に、

「アキト……、気をつけてな」

そう声を掛けたのだが、無視されてセレナイトは相当凹んでいた。
次にナデシコ一行はオリュンポス山にあるネルガル研究施設を探索し終え、イネスを引き連れたアキトたちと合流する。

そこで木星蜥蜴の大規模な攻撃を受け、性能の上がった敵の本気攻撃の前に満足な反撃も出来ずに敗退。
セレナの善戦、しんがりによって何とか逃げることが出来た。

北極圏に向かう途中、アニメ本編とほぼ同じなシーンが続いた。
(なぜなにナデシコでウサギユリカとルリお姉さんの他に猫耳師匠のセレナイトが友情出演したのは本編にはない出来事だったが)

そして現在は木星蜥蜴に囲まれ、クロッカスが囮になろうとしていたところだ。

「くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉ!」

クロッカスから脱出したアキトが格納庫を出てブリッジに向かって走っていった。
それを黙って見つめるイネス。
そこにセレナイトが現れた。

「すみません、イネスさん、会長からの命令でこれから私と二人、エステでチューリップに入って貰います」

「どうして二人で? このままナデシコに乗っていれば良いでしょ?」

突然のこと、興味深げにセレナイトを見た。

「ナデシコとは別の場所に行きたいからです。それを行なうには貴方の力が必要ですし、
その後にも貴方の力が必要だ。ですから私と一緒に来てもらいます」

「……嫌だと言ったら?」

「言いませんよ。私は貴方にとって知りたい情報の宝庫ですから。もし応じてくれたのなら貴方には私の知っている情報を全て教えても良い」
「例え貴方が私の知りたい情報を知っていたとしても、その前に死んでしまっては意味がないわ」
「死にません。私一人ではどこに飛ばされるか分かりませんが、火星出身の」

声を小さくして言った。

「A級ジャンパーの貴方が居れば、私達は無事に地球に辿りつく事が出来ます。貴方が記憶を失った状態で火星に現れた時のようにね」
「なっ……」

さすがのイネスも眼を大きく見開いた。

「では行きましょうイネスさん。ディストーションフィールドが私達を守ってくれます」
「貴方は……いったい」

不敵に微笑むセレナイトを驚愕の表情で見ていたイネスだったが、差し出された手を握るのにそう時間は掛からなかった。






■   ■   ■





「セレナイトさんっ!」
「セレナちゃん!」

ブリッジは大混乱だった。
フクベが砲身をナデシコに向けてチューリップへの進路を指定した時点で既に軽いパニックだったが、そこにセレナ機の出撃が加わってはもはや大パニック。
お陰でフクベ提督の一世一代の見せ場が完全に消去されている。

いま彼との通信はテレビの同時放送のおまけの如く小さい画面に押しやられていた。(涙)
何かを言っているのだが、ブリッジの人間のセレナを呼ぶ声で完全にかき消されている。

「私は良い提督ではなかった!」

心なしか声を張り上げている。それでも誰も聞いていない。(涙)
誰か聞いてあげて!

「セレナイトさんっ! どうして!」

アキトが叫ぶ。顔面蒼白だ。

「セレナちゃん! どうしてそんな! ユリカが怒ってたのが悪かったの!?」

ユリカも今にも泣きそうな表情で叫んだ。

「セレナイトさんっ!」

さすがのルリもこの行動は予期出来ていなかったようで、少し取り乱している。
だが次のセレナの説明を聞いて納得した。彼女の考えていることが大体理解できた。

「別に自殺するわけじゃない。イネスさんも連れているんだから」

皆を安心させるようにそう微笑んだ。

「ただもう一度、しんがりを努めつつ、ナデシコとは少し遅れてチューリップに入るだけ。その為のバックパックも用意している」

そしてイネスも連れている。

「でもどうしてイネスさんまでっ!」

それは秘密である。

「私の最重要任務はイネス・フレサンジュの確保と、その彼女を安全に本社へ送り届けること。だからこういう場合、一緒に居てもらわないと困る」

ナデシコとセレナ機は条件的には同じなのだからどちらにいても良い。ならば自分が守れる範囲に居てもらうのが自然というものだ。

「というわけだから先に行くんだ。私達も後から行く」
「で、でも……」
「行けっ! ユリカ!」
「は、はいっ!」

鋭い声で言われて咄嗟に返事をした。心も決まってしまっていた。

「ではご武運をっ! セレナちゃん!」
「うん、ユリカさんも。また会おう」
「了解です。ビシっ!」

お前これ好きだなぁ……。

「セレナイトさん! オレも行きます!」
「アキトはナデシコを守れ」
「で、でもっ」

不貞腐れて自暴自棄になっていたお陰で言いそびれていたこともある。
なのにこんなところでもしかしたら永遠の別れになってしまうかも。

「すぐに合流するさ。お前にはまだ教えることがたくさんあるんだから」

諭すように言った。
ナデシコが発進する。

「セレナイトさぁぁぁぁぁぁぁん!」

アキトの絶叫が響いた。




「……熱々ね、貴方たち」
「……は、恥ずかしい奴。」

昔の自分のことながら恥ずかしくなった。
白い肌が首筋から耳、頬、おでこまで真っ赤に染まってかなり可愛い。




ただもっと可愛かったのは隅っこで活動停止していじけているクロッカスのフクベ提督であったのは言うまでもない。



まだまだフクベ提督の冒険は続く!

 




 

※ 機動戦艦ナデシコ二次創作「アキトが逆行して女の子になって……」は今回を持ちまして終了します。
   あのね先生の次回作にご期待下さい!


 



 




 

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