「……んっ」
「セレナイトさんっ!」

目を覚ましたセレナイトの視界にアキトの姿。

「アキト……、ここは?」
「分かりません、敵の兵士か研究員かのプライベートルームみたいなところだと思います」

辺りを見回すと確かにそういった雰囲気がみて取れた。
最低限の家具、冷蔵庫などが置いてある室内。部屋の奥には洗面所、浴室もあるようだ。

「まだ頭が働かない。なぜこんなところに、もっと非人道的な場所に監禁されると思ったが」
「俺もさっき気が付いたばっかりで何がなにやら……」

セレナイトが最大級の絶頂とともに気絶したあと、程なくして自分も首に手刀を打たれて気絶した。
そして気が付いたらここにセレナイトと二人で監禁されていた。

「せ、セレナイトさん……、おれ、……おれっ!」

不甲斐なさが涙や言葉となって溢れ、

「アキトは無事か? どこか痛む所はあるか?」

言葉をさえぎってセレナイトがアキトの頬に手を添えた。
至るところに青痣をつけているが、大きな傷はない様子。腕も切断されてはいない。
アキトの顔を優しく撫でながら確認する。

「良かった。……本当に良かった」

そういってセレナイトは微笑んだ。
アキトの双眸から涙が溢れ出してくる。
言いたいこと、懺悔したいことがたくさんあった。

「その涙だけで充分だ。お互い言いたいことはたくさんある。
だがそれを言ったところで何も変わらない。私はお前を恨む気は微塵もないが、お前は絶対に自分を許せない。
いくら自己の責任を痛感し、相手に謝罪しようが、その心の咎はどうしようもできないんだ」

「うっ……、うぅ、……うっ」

「だから今は過去を悔やむのじゃなくて、未来を考えよう?
ここから脱出したときに改めて過去を思えばいい。その時に改めてアキトの気持ちを聞いてやる」

だから今はあまり自分を責めるな。
セレナイトは優しい声色で言った。

「さぁ、まずは現状把握だ」

そういうと酷い倦怠感を振り切って、ゆっくりと上半身を起こした。
適当に巻かれていたボロ雑巾のようなタオルがはらりと落ち、セレナイトの裸体が露わになる。

「あっ……」

アキトの頬が染まる。
セレナイトも少しだけ恥ずかしそうにして、タオルで胸を隠した。

「ふふっ、あんなところを見られたんだ。……今更だけどな」

自嘲気味に言う。
すでにアキトには全てを見られている。陵辱されているところさえも見られた。
男の肉棒によって辱められ、嬌声を上げて快感に震えている痴態を見られた。
いくら見られたのがかつての自分自身といえど、壮絶なほど恥ずかしくて、やるせない。

「とにかくこの部屋を調べるか」

頭を振って悪夢を払った。
立ち上がり、部屋を物色する。
テーブルにメモ帳が置いてあるのにすぐ気が付いた。

『ここはお二人の愛の部屋です。食料やその他生活用品も常備してありますのでご自由にお使い下さい。
また入浴もご自由にどうぞ。先ほどの行為の余韻が残っていると思いますのでリフレッシュの意味合いを込めて綺麗に洗い流して下さい。
あとお二人で愛や絆を確認しあったり、脱出の算段をつけるのもご自由です。ただしお弟子さんの腕に装着したブレスレットには、
遅効性の毒薬を仕込んでおり、こちらの指先一つで針がお弟子さんの手首に刺さり、毒が注入されますので、
あまりドラマティックな脱出は考えないようにして下さい。じゃないとお弟子さんは長時間苦しんで発狂しながら死ぬことになります。
それでは次回の性交渉の時まで楽しみにお待ち下さい。貴方の愛するヤマサキより♪』


「………………くっ」

人を馬鹿にするような文章にワナワナと震えるセレナイト。
屈辱による怒りと、僅かな被虐心が下腹部を熱くする。

「セレナイトさん……」
「アキト、腕を見せてみろ」
「は、はいっ」

するりと袖をめくると腕時計のようなブレスレットが装着されていた。

「……やはり甘くはないか」

自分とアキトを何の制約もなしに一緒に監禁するはずもない。
相手はあのヤマサキ、北辰なのだ。A級ジャンパー達に常軌を逸する人体実験を何の罪悪感もなく行った相手。
科学的探究心だけではなく、ただ純粋に人の心を壊すのが大好きな真性のサディスト。
じわりじわりと蛇のように心を壊していく。

「いいか、アキト、そのブレスレットには猛毒が仕込まれてる。
私たちが反抗的な態度を取ればボタン一つでその猛毒が注入される。凄く苦しくて痛いそうだ。
だからあの時みたいに私が何かをされたからといって暴れたりするなよ?
ヤマサキは良心が欠如してるクズだ。何が切欠でそれを作動させるか分かったものじゃない」

「で、でも……」

また目の前でセレナイトがレイプされるのを見ることに耐える自信はない。

「辛いかもしれないが耐えてくれ。もし下手なことをしてお前が死んでしまってはどうする?
もう私は何を思って生きていけばいいのか分からない。あの行為に耐えられるのはお前がいるからなんだぞ?」

「……えっ?」

少しぐらい元気付けてやってもバチは当たらないだろう。
セレナイトは言った。

「お前がいるから私は生きていけるんだ。……私にはアキトが必要なんだ」
「えっ……、えっ」

顔がみるみるうちに赤くなっていく。
じわじわと頭から湯気が立ち上がる。

「ふふふ、だから私のためと思って、耐えてくれ。……な?」

セレナイトはそういうと湯気が立つアキトの頭を何度か撫でる。
年下の美少女が純情な青年を弄ぶような図。

「私はこれからシャワーを浴びてくる。その間、アキトは冷蔵庫のもので何か食事を作ってくれ。
自力での脱出は無理でも間違いなくルリちゃん達が助けに来る。その時まで何としても生き延びないといけないからな」

何せルリたちはこの作品では若干のギャグキャラの血が入っているのだ。
話の整合性など無視して、自分達の居場所を突き止めて救出してくれるに違いない。

「では頼むぞ」

セレナイトはそう言って浴室に向かった。














「く、……くそぉ」

悔しさで滲んだ涙がシャワーで洗い流されていく。
北辰の怒張を飲み込み、精液を飲み込んだ秘部から、あの時の彼の精液がとめどなく溢れてくる。

(……穢された。……北辰に、穢された)

あの北辰に。
自分たちの人生を奪い、未来を奪った復讐すべき相手に。
レイプされ、精液を膣(なか)にだされ、甘い声で泣き、縋るように媚びた。
まるで心と魂を陵辱された気分だ。まるで一つの存在としての自分が完全に屈服させられてしまった気分だ。

「くそ、くそぉ……、うぅ、……ひっく」

情けないことに涙が止まらない。
本来なら男のはずなのに、こんなことで泣くのは女々しいだけなのに……。

「うぅ……、ひっく、……ひっく」

どうしても涙が止まらない。
セレナイトは自身を抱きしめるようにして涙を流す。

(これからまた、北辰に、ヤマサキに……、犯されるのか)

どこまで耐えられるのだろうか……。
その辺の有象無象に犯されるのならまだ良い。
屈辱的だがまだ耐えられる。

だがあの二人にだけはダメだ。
最愛のユリカの仇たるあの二人にだけは……。
それなのに……。

「結局全部自分のせい……。ごめんなユリカ」

力なく言った。
シャワーの音にまじって小さな嗚咽の音がいつまでも響き続けていた。










「んっ、良い匂いだな。パスタ、ぺペロンチーノか」

浴室内での涙を洗い流し、平静を装ったセレナイト。
キッチンでフライパンを振るアキトに声を掛けた。

「は、はい、すぐに出来るのはこれぐらいだったので。……米を炊くのはさすがに」
「そうだな」

本格的なものを作れるほどの品揃えはないようだった。

「あ、あの……、それよりもその格好」
「ああ、サディストらしいやり方だ」

アキトが困惑するのも無理はない。
セレナイトはその硬質な雰囲気とは正反対の愛らしいイチゴの模様の入ったパジャマを着ていた。

「これしか着るものがなかった。全裸のままというわけにもいかないしな」
「そ、そうですか」

監禁されているという状況に似つかわしくない服装である。
緊張感が全くない。

「それともお前が私のこれを着て、私がお前の男物のパジャマでも良かったか?」

そちらはどこにでもある縞模様のパジャマである。

「い、いえ、どっちにしてもサイズが」

セレナイトが大きめのサイズの男物パジャマを着るのは色んな意味でありだが、
アキトがサイズ小さめの可愛らしいパジャマを着るのは色んな意味でアウトだ。

「そうだろ? だから仕方ないんだ。それよりも早く食事をとろう」
「は、はい。もう出来ました」

そしてテーブルにぺペロンチーノ二人前を乗せ、食事を開始する。
コックとして働いているだけあって、もちろんアキトの料理は美味しかった。
二人とも特に話すことなく、黙々と食べ続けた。

話題などやはりこの現状を反芻するものになってしまう。
当然、セレナイトの悲惨な体験に言及することになってしまう。
だから二人は黙々と食べ続けた。

それが終わるとアキトが浴室に向かい、セレナイトは洗面所で歯を磨く。
一瞬、ナデシコでの通常の活動だと錯覚してしまうような状況。
いや、あえてそう思うことで現実から逃避している。






「……寝るか」
「……はい」

またいつ奴らが来るか分からない。
そしてルリ達がいつ救出に来るか分からない。
いま出来ることはそれらに備えて体調を整えることだけ。

「あの、僕はそこの床で寝るんで、セレナイトさんは」
「いや、体力を回復させるために二人で寝よう。床は疲れる」

布団が一つだけしかなかった。そして枕が二つ。
カップルが旅館に泊まった時、みたいになっていた。

「で、でも……」
「良いからほらっ」

そういうとセレナイトはアキトの手を握って、布団へと誘った。
トンと肩を押して無理やり座らせ、横に倒す。……そのまま自分も横になった。

「さぁ、寝るぞ」

有無を言わせぬようにそう言った。
一つの布団をお互いにかぶさるように掛ける。

「あ、あの……、な、なんでこんな」

心臓がバクバクいっている。
目の前にセレナイトがいる。ジッとアキトを見つめている。
切なげに潤んだ瞳で。

「布団は一つしかない。お互い疲れている。だったらこうするのが当然だ」
「で、でも……、僕なんかよりセレナイトさんの方が」

あんなことをされたのだから疲労は貴方のほうが……。
アキトの言外の問いかけにセレナイトが答えた。

「あんな奴らに犯されてしまった。あんな奴らの体温に穢されてしまった。
あんな奴らの肌と触れ合ってしまった。あんな奴らの精液を中に……、あんな奴らの……、あんな奴らのっ」

瞳がみるみる潤んでいく。

「奴らの感触が消えない。奴らの臭いが消えないんだ。
だからあいつらの感触を消すためにお前とともにいたい。お前の温もりを感じていたい」

屈辱の記憶を塗り替えたい。そして脅かされた自身の人格をもう一度立て直したい。
相手はかつての自分自身、ユリカが愛した男。言うなれば自分にとって対となる人格。

だからアキトの温もりを、匂いを感じることが出来れば、欠損した魂を再び修復出来る。
穢れた心を浄化出来る。

「…………い、嫌か?」

心細そうな表情で言った。
断られたら悲しくて消えてしまう。というような表情だ。

「い、いえそんな! 光栄です!」

もちろん想い人のそんな嬉しい願いを聞かないわけがない。

「そう、か……、ありがとう」

ホッとしたように微笑んで礼を言った。
そしてゆっくりとアキトに近づいて、恐る恐るその胸に顔をうずめた。

「せ、セレナイトさんっ」

完全にパニック状態のアキト。まさかいきなりここまでなんて!
セレナイトは気にせず胸に顔をうずめ、両手でアキトを抱きしめる。

「せ、セレナっ」
「ぅ……、ぅぅ……、うっ」
「………………」

アキトの動揺が一瞬で吹き飛んだ。
自分の胸の中、セレナイトが小さく嗚咽していた。

「ぅぅ、ぅ……、すまない。少しだけ、少しだけで良いんだ。……このままでいさせてくれ」
「………………」

小刻みに震えながら、まるで怯える子犬のようにアキトに縋りつくセレナイト。
北辰の体臭、北辰の精液、ヤマサキの体臭、ヤマサキの精液……。
そんな嫌悪すべき不快な臭いを打ち消そうとするように、アキトに縋った。

「アキトの匂い……アキトの匂い……、良い匂い」

嗚咽と甘えた声が混ざったような男泣かせの声色でセレナイトが言う。
絡みつくようにアキトに抱きついているので胸や太ももが完全に密着している。
生殺しもいいところである。

だがアキトは必死にその感触と戦っていた。
数時間前までレイプされていた想い人にそれと同じようなことをするなんて最低な行為である。
しかし、

「アキト、……アキトぉ」

こいつ、誘惑してんじゃね? というぐらいの凄まじいアプローチをしてくるセレナイト。
アキトは不動明王のような顔をして必死に耐えた。

「アキ……ト、…………ア、……キ……」

しばらくして、セレナイトは眠りについた。










「………………寝れない」

そう呟くのはもちろんアキトである。
寝れるわけがない。想い人が自分に抱きついて寝ているのだから。

「セレナイトさん……、身体、気持ちよすぎです」

甘くて柔らかくて温かくて……。
それらの感触が気持ちよすぎて、とても眠れる状況じゃない。
むしろ情けないことに股間の愚息は金剛童子のようになっている。

「や、やばい……、本格的にやばい」

ムラムラが止まらない。
無防備に自身に絡みつくセレナイトを強く抱きしめ、色々な行為をしたい。
数時間前まで、敵の人間に好きなように犯されていた。想い人が自分以外の誰かに目の前で犯されていたのだ。

(あんな奴らに穢されるぐらいなら、自分がっ!)

そういう気持ちが湧かないわけがない。

(いつ、また奴らがここに来るか分からない。その時はまた……)

目の前で犯され蹂躙されるセレナイトを見なければならない。

(そんなのはいやだ! せ、セレナイトさんはオレの!)

師匠であり、パートナーであり、……想い人。
もう誰かに陵辱されている姿なんてみたくはない。
しかも散々想い人の痴態を見せられただけで自分自身は一切何も放出していない。
我慢の限界に来ていた。

「……ぁ、……(すみません、セレナイトさん! もう限界です!)」

アキトはゆっくりとセレナイトの抱擁を解きながら、彼女の胸に手を……。

「……いいぞ」
「ひっ!」

突然、声が聞こえた。
セレナイトが目を開け、アキトを見ていた。

「ひぃ! ……す、すみません! せ、セレ」
「いいぞ? アキトがしたいことをして良い。私を抱いて良い」

真剣な表情で言った。

「……えっ?」
「私を抱きたいんだろ? そうだよな、あんな場面を延々見させられたんだ。悶々とするのも仕方ない」

ゆっくりと起き上がりながら言った。促されてアキトも起き上がる。
座り込んだまま、お互い、見詰め合った。

「……それに、

私も……、私もアキトに抱いて欲しい。アキトの匂いであいつらの臭いを消して欲しい。
アキトの精液で……、あいつらのを……、私の膣(なか)を、……消毒して、欲しい」

目を逸らし、小さな声で訥々と、恥ずかしそうに言った。
超絶美少女の膣出し依頼である。……これは、クる。

「セレナイト……さん」
「アキト……」

二人は頬を染めて見詰め合う。

「まさかお前とこんなことになるなんて思わなかったな」
「は、はい……」

「………………」
「………………」

「あ、あの、おれ、……その、初めてなんで、あんまり」
「大丈夫、アキトがしてくれることなら、……何でも気持ち良いから」

セレナイトはそういうと、恥ずかしそうにしながらも、目を瞑って顎を上げた。

「…………ゴクン」

アキトは生唾を飲み込み、セレナイトの両肩に手を乗せた。
ビクン、……セレナイトの肩が震える。

ゆっくりとアキトの顔が近づく。

「………………」
「………………」

初々しいカップルの初キス。
そのような光景。

『はいはい、そこまで〜』

それは無粋な横槍によって中断された。

「「なっ……」」

パチリと目を開ける二人。
少しして、部屋に入ってきたのは鬼畜王ヤマサキ。

「師弟の禁断の愛、見せてもらいましたよぉ。うぅん、甘酢っぱいですねぇ」

飄々とした態度でそう言いながら二人に近づいてくる。
そして更に接近すると、セレナイトの前にしゃがみ込み、強引に唇を奪った。

「んっ、んぅぅ!」
「セレナイトさん!」

目を見開いて驚愕するセレナイト。
アキトの唇を感じるはずだったのに、ヤマサキのそれを味合わされるはめに……。

「ん、んぁ! や、やめろっ」

生理的嫌悪が先にたち、ヤマサキを押し返す。
為すがまま後ろに吹き飛ばされるヤマサキ。

「あいたたたた、酷いですね、セレナイトさん」
「き、きさまぁ……」
「セレナイトさん、後ろに下がっていて下さい!」

今度こそ守る、アキトは彼女の前に立った。

「アキト……」

「良いんですか? そんなこと言って。それにさっきみたいに私に乱暴なことすると、
間違ってこのスイッチを押しちゃいますよ? お弟子さんが苦しんじゃうスイッチ」

そういってヤマサキは手中にあるリモコンを見せた。

「なっ……」

セレナイトが色を失う。

「ああ、もちろんこれを奪ったから助かるってものでもないですからね?
そんなことした瞬間に監視している部下が予備のスイッチを押すだけですから」

「…………」

「ですから言う通りにして下さいね」

爽やかな笑顔を浮かべてヤマサキは言った。

「さぁ、セレナイトさん、続きをしましょう。……おいでおいで」

余裕綽々と手招きをする。

「…………くっ」
「セレナイトさん! オレはどうなっても構いません! あんな奴の言う事なんて!」
「……アキト、今は従うしかないんだ。……我慢してくれ」
「……セレナイトさん」

うな垂れるように肩を落とし、セレナイトはヤマサキの眼前にひざまずいた。

「さぁしましょう! しましょう! ディープなやつが良いですね! ディープなやつ。私、大好きなんですよっ、愛のあるキス」
「…………お前は、……こうするためにわざと私とアキトを同室にしたのか?」

アキトと自分を同室にし、良い雰囲気にする。
そしてそういう行為をする寸前で乱入し、自分が目の前でそれを行う。
あえて想いを高めさせ、それが成就する寸前で想いを陵辱する。

「ええ、もちろん。その方が燃えますからね!」
「…………くっ!」
「さぁ、はじめましょう!?」
「………………」

異常なハイテンションのヤマサキ。
それを見て、憤怒の想いが心を焼き尽くす。
しかし、以前ほどではない。

諦観の念が心に満ち始めていた。



「アキト……、見ないで、くれ」
「……セレナイトさん」

これから自分とヤマサキがキスする姿など見られたくない。

「いえ、ちゃんとお弟子さんにも見て貰いましょう。私たちの愛あるキスを」
「…………、お、お前は……、本当に」

人の心を陵辱し破壊する天才だ。
涙を滲ませながら、セレナイトは目の前のヤマサキを睨んだ。
だが彼は全く気にしていない。自身の唇を指差してキスを催促している。

「アキト、……すまない。……耐えてくれ」

セレナイトはそう言うと、ヤマサキに顔を近づけた。
屈辱と羞恥で揺れる瞳が彼の唇を捉える。

「………………」

少しのためらいを見せながらも静かに彼に口付けた。

「……んっ」

嫌悪感が全身を包む。

「んふふ♪」

一方のヤマサキはとても嬉しそう。
嫌々なのが手に取るように分かるセレナイトの口付けを本当に嬉しそうに味わっている。
甘く柔らかく、果実のようにみずみずしいその唇を……。

チラリとアキトを見た。

「……くっ」

殺気のこもった瞳でヤマサキを見ていた。
目の前で想い人が憎き相手とキスをしているのだ。

「んぅ♪」

それに対し優越感を抱いたヤマサキはピースサインを見せて自身の想いを伝えた。
そしてセレナイトの頬を撫で、頭を撫でながら彼女の唇の感触を味わう。

「……んっ、……っ」

そのたびにセレナイトは小刻みに身体を震わせる。
想いとは裏腹に瞳が熱を帯びてくる。

トントン……、ヤマサキが唇をノックしてきた。
ひらけということらしい。

「……ん、ぁっ」

拒否を許されていないセレナイトは小さく唇を開く。
途端にニュルン、ヤマサキの舌が入ってくる。

「んっ!」

セレナイトの身体が鋭く震える。

「んっ……、ん、ん、……んっ」

舌を絡めとられ、上あごを舌先でチョンと叩かれ、レルレルと撫でられる。

「んっ! ん! んぅ!」

その度にビクン! ビクンと身体を震わせる。
更に背筋にツゥーっと指を這わせられて背を仰け反らせた。

それがアキトの目の前で行われている。

「ん、んん……、ん」

セレナイトが屈辱と快感に翻弄される様が目の前に映し出されている。

(くそっ、くそっ……、くそぉ!)

怒りで頭がおかしくなりそうだった。

「……んぅ、……んっ」

セレナイトがヤマサキのキスを受けながら、ふいにアキトを見る。
そして怒りの表情を浮かべているのに気付くと、哀しげにそれを見たあとに目を逸らす。
身体をずらし、彼からキスしている姿が見えないようにと密かに体勢を誘導した。

「んふふ♪」

それに気が付いたヤマサキはすぐに体勢を元に戻し、むしろ先程よりも良く見えるようにとアキトに接近する。

「もう、駄目じゃないですかセレナイトさん。お弟子さんから隠れちゃ。
こういうことを実践で教えるのもお師匠さんの役目でしょ?」

「……はぁ、はぁ、はぁ」

「さぁ、今度はもっとお弟子さんに見えるように実践しましょう?
ほら、舌を出してください」

「………………」

「早くしてください♪」

「…………くっ」

逡巡したあとにセレナイトは口を少し開け、舌を突き出した。

「もっとです♪」

その指示に従い更に出す。

「うん、それくらいでいいでしょう。……ほら、お弟子さん、よく見ていてくださいね。
私が貴方のお師匠さんの舌を味わうところを」

ヤマサキはそういうと、控えめに突き出されたセレナイトの舌を厭らしくねぶりだした。
アキトに見えるようにと唇を接触させることなく、突き出た舌だけを厭らしくねぶる。

舌同士をべったりと合わせたり、啜るように吸ったり、甘くついばんだり……。
中年男が超絶美少女の舌を好き勝手にむさぼっている。

「……ん、……ん……、んん」

セレナイトは目をギュッ! と閉じてその不快で恍惚的な感覚に耐えている。
両手を強く握り、パジャマの裾を掴んでいる。

本来ならこんな男など瞬時に殺害出来るのに一切の抵抗が出来ない。
為すがままに愛撫を受けるだけ。

「お師匠さんの舌、とっても甘いですよぉ」

こんな屈辱の言葉を吐かれても何も抵抗できない。

「んふ、んふ、柔らかくて美味しそうだぁ。食べちゃおう♪ はむ」

「んぅっ」

舌をまるごと口に含まれる。
そしてそのまま前後にしごかれる。

「んぅっ、んっ!」

驚いて、ヤマサキの肩に手を置くセレナイト。
しかし引き離すことは出来ず。震えながらそれに耐えた。

ヤマサキは何度かセレナイトの舌をしごいて、味と感触を楽しんだあと、
そのまま唇を近づけて通常の口付けに移行させる。

充分な愛撫で馴染みだしたお互いの舌をねっとりと絡め合わせる。

「んっ……、んんぅ、んぅ!」

セレナイトの震えが激しくなる。
肩に置いている手に力が入る。

「んっ……、んっ!」

舌を再度強く吸われ、恋人のように強く抱擁された。
憎き敵であるヤマサキに強く抱擁された。

「んっ、んっ、……んんんぅ!」

口内の快感と、全身を包み込まれる快感。
心と身体を捕食されてしまったかのような感覚がセレナイトを襲う。

「……っ!」

その背徳的な屈辱感が、彼女を高みにいざなう。

「っ! ……んっ!……んっ!」

大きく震えることに耐えている。
そんな控えめで小刻みな痙攣を見せながら、


セレナイトはきらめくような絶頂を迎えた。










「ふふふ、キスだけでイっちゃいましたね」
「………………」

セレナイトを胸に抱きしめたまま、彼女の後頭部を優しく撫でながら言った。

「………………」

セレナイトは恥ずかしそうに俯きながら、その優しさとキスの余韻にひたっていた。


「………………」
(こんな……、こんな簡単に良いようにされてしまうなんて)

たかがキス如きでここまで乱れてしまう自分が情けない。
愛情を持っている相手ではない。むしろ復讐すべき相手。それなのに簡単に気をやられてしまう。

余韻が引いたセレナイトは悔しそうにヤマサキを睨んだ。

「わっ、上目遣いで可愛い♪」

なんの威圧にもならなかった。

「さぁ、もう一度、キスしましょう?」
「……えっ、また」

もう充分なほどにしたように思えるが。

「言ったでしょ? 私はキスが大好きなんです。一時間でも、二時間でも出来ますよっ。
しかも相手は敵国の最強美少女エースなんですよ? そんな子と長時間キスが出来るなんて最高じゃないですか」

「………………」

「さぁ、もう一度はじめましょう。今度はお互い座って、じっくりラブラブと」

そういうとヤマサキは胡坐をかいて座り、自身の前に座るようにと指示した。

「ああ、お弟子さんはもう寝ていて良いですよ? さすがに一時間二時間これを観察させるのは酷ですからね。
ちょっと煩いかもしれませんけど、我慢してそこで寝ていて下さい。……うふふ、私って優しいでしょ?」

「………………」

アキトは凄まじい表情でヤマサキを睨みつける。
今にも飛び掛りそうな雰囲気。

「……アキト」

それを哀しそうに見つめるセレナイト。
彼が感じている屈辱が痛いほど分かる。

「ヤマサキ……、もうアキトを追い詰めるのはやめてくれ。
お前の言うことは聞いているだろ? キスがしたいのなら好きなだけしていいから。
だからこれ以上、アキトを……」

「ですから先に寝ていていいと言ったじゃないですか」
「そ、そういう意味ではなくて、……じゃあせめて、一度、すっきりさせてやりたい」
「すっきり? どういうことですか?」
「……わ、私がアキトのを、……その」

頬を染めて俯くセレナイト。
自分からそんな提案をするのは恥ずかしすぎる。
だが男のそういった辛さも理解していた。
一度放出してしまえば、この屈辱にも耐えられるのではないか。

「だから何をするんです? はっきり言って貰わないと分かりません」
「……そ、その、アキトの……精液を……、しゃ、射精を……させたい」
「セレナイトさんっ!?」
「どうやって射精させるのですか?」
「アキトのしたい方法で。手でも、口でも、……ぁ、そこ、でも」
「……セレナイトさん」

「ふむ……、どうしたものですかね」

熟考するように顎に手をやった。

「でもそれは許可できませんねぇ」

すぐに答えが出た。

「だってそんなことしたら面白くないじゃないですか。
お弟子さんが抑圧されているのが面白いんですよ?
お弟子さんの好きな人が目の前で犯されてるから燃えるんですよ?
なのにここですっきりしてしまったらその楽しみが半減してしまいます」

「………………クズが」
「そのクズに貴方が犯されるからこそ燃えるんです」

「……じゃ、じゃあせめて別のところにしてくれ。
アキトの目の前でいつまでもこういうことは」

「んふふ……、ダメです。さぁ、ここに座って下さい」
「………………」

複雑な表情、怒りと諦めが交差したような表情でヤマサキを見つめるセレナイト。
力なく、彼の胡坐の上に寄りかかるように座った。

「アキト……、すまない。いつか必ず相手をするからいまは我慢してくれ。
それに私の心はお前とともにあることを忘れないで欲しい。これはただの拷問なんだ。
決して心を許した行為ではない。そのことを理解してくれ。そうすれば少し楽になると思う」

「……セレナイトさん」

「あらら、随分と酷い言い草ですね。ですが良いでしょう。
その心をゆっくりとこちらに傾けさせてあげますよ♪」

セレナイトの肩を抱きながら余裕の表情で言った。
そしておもむろに彼女の口を吸う。

「んぅ!?」

驚き、目を見開くセレナイト。
ヤマサキはすぐに口を離した。

「こういう風に簡単に気持ちよくさせて、心も墜としてあげますからね。
さぁ、お弟子さんはそちらを向いて、布団にくるまって寝てください。
私たちはこれから愛し合いますから」

「………………」
「……アキト」
「分かりました」

セレナイトと見詰め合ったアキトはうな垂れるように頷いて言った。
そのまま顔を背けて、横になって、布団をかぶる。
本来だったらセレナイトと一緒に入るはずだった布団に一人だけで入った。

「でははじめましょう♪」

ヤマサキの声が聞こえ、

「あっ、ん、……んん、……んっ」

セレナイトの甘い声が漏れ出した。

「やっ、……そ、そこは、首……」

どうやら唇だけでなく、様々なところに口付けているらしい。
戸惑いと羞恥の色を含むセレナイトの声が聞こえてくる。

「赤くなって可愛いですよ? セレナイトさん。……んちゅ」
「や、やめろっ、……んぁ、……そ、そういうこと、言うな」

まるで恋人同士の睦み合いのような会話が聞こえてくる。

「……くっ」

アキトは布団を頭までかぶり、声を遮断しようとする。

(セレナイトさんはオレのものだっ。心はオレに向けてくれているんだっ)

それだけがアキトの最後の砦だった。


「ほら、私の唾液、飲んでください。……んぁ」
「ん、んんっ……、んはぁ、……き、汚い」
「あ、言ったなぁ。このぉ、お仕置きだぞ♪」
「やっ、そんなところっ、……やめろ、あんっ、んっ」
「ふふふ、このぉ、このぉ」
「だ、だからっ、んぁ、……ふ、ふざけ、ぁん!」

心が張り裂けそうになるやり取りが聞こえてくる。
チュッチュ、チュッチュとイチャイチャする音が聞こえてくる。

「ほら、ここ気持ちいいでしょ?」
「ん、んぅ、……し、知るかっ」
「素直に言わないと大変なことになりますよ?」
「………………」
「イくときにもまた申告御願いしますね。……それで、これは気持ちい良いですか?」
「…………(コクン)」
「っふっふっふ、可愛い。耳まで赤くしちゃって。……じゃあこれはどうですか。んちゅ(レロレロ)」
「んんっ、……ん、……んんぅ、…………はぁ、……き、気持ちいい」
「そうですかぁ。……じゃあもっと気持ちよくしてあげますね。私、好きな人には優しいんですよ?」
「そ、そんなこと、ぁ、……やっ、……だ、だめ、……それ、…………ぃや」
「ふふふ、これ続けられたらイってしまいます?」
「…………は、はい」
「じゃあ続けてあげます」
「やっ、だめ……ぁ、あっ、……ん、……んっ、んんぅ」
「んはぁ、ほら、ほら、これは? これはどうです?」
「ぁっ、……や、……ん、ん……、はぁ、……あっ、……あぁ」
「ほら、ほらほら、んふふ、んふふふぅ」
「ぁん、……そ、そんな顔で、見るなぁ、……や、ん……あっ」
「そろそろイきそうですね? 身体、震えてますよ?」
「ん、……んん、……は、はい、……も、もう、イきます。……ぁん、……い、い、って、……良いですか?」
「ええ、ご自由に。でもイくときの顔、しっかり見せて下さいね」
「や、そ、そんなの……、ぅん、……んっ、……あ、だめ、……も、もう……、イく」
「ふふふ、目が虚ろになってきてます」
「ぅ、ん、……んんんっ!」
「おっ、イきましたね!」
「……(ビクン!)……(ビクン!)……(ビクン!)」
「可愛いですねぇ。そこですかさず追い討ちのキッス!」
「んぅ!? んんっ、んんんんん!」
「んふふふふふ」
「んっ、……んっ、んっ!」

ヤマサキとセレナイトのくぐもった声が漏れ、
衣擦れの音、痙攣する身体の音が静かな室内に響き渡る。


(くそぉ! くそぉ! くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!))


そんな二人の甘いやり取りを、発狂しそうになりながらアキトは聞き続けた。
そしてそれは一時間以上に渡って延々と続けられた。



















「あっ、あっ……、あっ、んっ、んぁ!」

パン!パン!パン!パン!

浴室から聴こえてくる濡れた声、したたかに打ち据えられる交合の音。

「いいですよセレナイトさん! 貴方の中は最高だ!」
「あっ、んっ、んっ……ひぅ! ぅん! あん!」

歓喜の声と恥辱の声。

「そろそろイきそうです。中に出しますよ!」
「やっ、んっ……、な、なかは……あんっ!」
「うっ、いくっ」
「あっ、……あぁ! んんぅっ!」

「くそっ、……くそぉ!」

アキトの耳に否が応でも届いてくる。

「ふぅ、たくさんでましたねぇ。……もしかして僕の子を授かったり?」
「はぁ……、はぁ……、そ、……そんな」
「でもこれだけじゃ足りないかもしれないからもう一回戦いきましょう!」
「……う、うそ、……まだ」
「取りあえずその身体で僕の身体を洗ってください。気持ち良いんだろうなぁ。英雄をスポンジ代わりに使うなんて」
「……………………」
「やってくれますよね?」
「………………はい」

そして再び甘い睦み合いの音が聞こえてくる。

「くそっ……くそぉぉぉぉ!」

床を思い切り叩く、唇をかみ締める。
……ともに血が滲んでくる。

(もういいっ! もうオレがどうなろうと知ったことじゃない!)

手首に巻きつけられたブレスレットを見る。
自分達が何か反抗的な態度を取ればここから毒が注入され、死に至る。

だがそれがどうした?

(このままこんなことを続けているほうが死ぬよりも辛い! オレが生きていることでセレナイトさんがあんな目に合い続けるなんて!)

それならいっそのこと自害したほうが……。

(いや、それよりもアイツを道連れに死のう! セレナイトさんを汚したアイツを道連れに)

アキトの目はすでに正気を失っていた。
虚ろな目を浴室に向けて、ゆっくりと歩き出す。
武器になるようなものは一切ない。……しかし今ならヤツを素手で殺すことなど造作もない。
それぐらいの怒りで全身が満ち溢れている。

「……あ、……っん、……こ、これで、いい……、ですか」
「うんうん、気持ちいいよぉ。セレナちゃんの肌、温かくて柔らかくて」


浴室からは怒りの火に油を注ぐような会話が聞こえてくる。

「……殺す。絶対に……殺す」

アキトの目が憎悪に燃える。浴室の前に立ち、手を……。

ドゴォ!

「ぐぇ!」

アキトの視界がブラックアウトした。





















「ふぅ、さっぱりしたぁ……。色んな意味でね」
「………………」

セレナイトの肩に手を回しながら、ホクホク顔で浴室から出てくるヤマサキ。

「……あれ、部下くんは?」
「……っ!?」

辺りを見回してもアキトの姿はない。
疲れきった表情をしていたセレナイトだったが、その事実を知り瞳を揺らす。

「あやつには別の部屋に移動して貰った」

部屋の入り口にいた北辰が言った。

「忍耐の限界を迎えたようだ。お前を殺しに行こうとしていたから無力化させた」
「……なにそれこわい」
「あ、アキトをどうした! ……ま、まさか!」

セレナイトの表情が悲痛なそれへ、そして憤怒へと変わる。

「気絶させて別の部屋に収容しただけだ。まだ利用価値があるのだから殺すはずがないだろう」

「………………」

「良かったですねセレナちゃん。これでまだ僕たちイチャイチャ出来るね」

ヤマサキはおどけるようにそう言って、セレナイトのお尻を触る。

「……くっ」

もてあそぶように身体を扱われ、目を瞑り、歯を食いしばるセレナ。

「といっても僕はこれから仕事があるんでね。残念ながら北辰くんとバトンタッチだ」

はぁ〜、残念、と大きくため息をつく。
そして部屋をあとにする。

「じゃあまた後でね、セレナちゃん。……っとその前に」

振り返ってセレナのもとに戻る。

「……んっ、んぅっ!?」

口付けをした。
まるで出勤前に夫が妻にするように……。

「じゃあ行ってくるよ!」

今度こそヤマサキは消えた。


「……………………」
「……………………」

残されたのはセレナと北辰。

「……………………」
「………………くっ!」

北辰は鋭い眼光でセレナを見据える。
セレナも負けじと睨みつける。

「くっくっくっ……、これだけされてもそんな眼を出来るとは」
「……何が言いたい」
「いや、本当に素晴らしい武人だと思ったまでだ。そしてその武人をこの手で墜とすことが出来る幸福に打ち震えている」
「………………」

無言で睨みつける。

「……お前なんかに……、決して屈しない」

確固たる意志を持っていった。

「そうであることを祈っている。そうあればあるほど、私は貴様を欲するのだから」

邪悪なまで禍々しい笑みを浮かべて北辰が言った。



そしてすぐに尋問という名の調教が開始された。
寝室に敷いている布団の上に組み伏せられる。抵抗することは出来ない。

「………………」

ただじっと北辰を睨み続けるセレナイト。

「クックックック」

それを嬉しそうに受ける北辰。
風呂上りの彼女の石鹸の香り、首筋に顔を寄せそれを堪能する。

「…………くっ」

そのおぞましさにセレナイとは眉根を寄せる。
北辰はセレナのそんな感情を煽るように首筋、胸元、脇、腕、指先、と匂いをかいでいく。
同時に自身の衣服を脱ぎ、全裸の状態に……。
さすがに暗部を統べるものらしく、刀剣のように鍛え抜かれた体躯をしており、歴戦の傷があちらこちらに刻まれている。
そして怒髪天を衝く、を地でいくような逸物。

「ひっ……」

あんなものを受け入れなければならないのかと、セレナイトは震える。

「では、ゆくぞ……」

セレナイトに覆いかぶさるように密着する。
柔らかくしなやかなセレナイトの白い肌と浅黒くて硬い北辰の肌が触れ合う。

「………………」

目を強く瞑る。北辰に触れた部分から全身に寒気が広がる。
怨敵の肌のぬくもりなど……、決して感じたくはなかった。

「ふむ、……心地よいものだな」

組み敷いている上位者の立場から、嘲るような口調で言った。

「私は……、最悪の心地だ」

そう言って視線を逸らすセレナイト。
北辰はその言葉に何も返さず、ただセレナイトの柔肌を堪能する。
だが結して愛撫しているわけではない。ただ肌の触れ合いそのものを味わっているだけ。
そしてそれとともに自らの怒張を……。

「なっ……、待てっ、……まだ濡れて」

前戯も何もされていない。
セレナのそこはただでさえ大きな北辰のそれを受け入れる準備は出来ていない。

「やっ、は、入らな……ぁぐ! くぅぁぁ!」

思わず北辰にしがみつく。
腹を裂くような痛み、衝撃。……ただただ凄まじい衝撃がセレナの芯を捕らえる。

「かはっ……、あぁ……ぁ、……ぁぁ」

目尻から涙がこぼれる。
押し込まれる怒張が空気を押し出すかのように、口から掠れた声が絞り出る。

「あっ……ぁぁ……、や、……や……、め、て」

声にならない声でそう言うが、やめるはずがない。
北辰は構わずに最深部まで怒張を突き刺した。

グチュ、

「ひぃぁ!」

そしてついに子宮の入り口まで達する。
まるで脳の快感神経を刺激するボタンのよう……。
そこを突かれると耐えることが出来ず、甘い声が出てしまう。

「くそっ、……くそぉ……」

息苦しさと圧迫感、快感がない交ぜとなる中、悔し涙を流すセレナイト。
これからまたこの憎き敵に良いように啼かされてしまうのだ。
しかし今度こそ自身を見失わないようにと誓う。北辰の凄まじい攻撃に耐えようと歯を食い縛る。


「………………」
「………………」



「………………」
「………………」



「………………」
「………………」


………………。
…………。
……。

「…………な、……ん、で」

苦しさの中、怪訝そうな表情で北辰を見つめるセレナ。
しかし北辰は口元を軽く歪めて嗤っているだけで、何もしてくる様子はない。
ただただ怒張の硬度を保ち、静止しているだけだった。

「………………ぁぁ」

いつ来るかわからないピストンに恐れを抱くセレナ。
次の瞬間にも怒涛の勢いで打ち据えられてもおかしくない。
そしてその次の瞬間にも……。

徐々に北辰のそれの衝撃に慣れたセレナの中は、今度はそれを受け入れるために蜜を分泌していく。
この状態で動かれては痛みしか感じない。それは生理的な反応だった。しかしそれは同時にセレナの中がほぐれ始めてきたことも意味する。

(…………どうして)

しかしそれでも北辰は動かない。
一ミリたりとも動かず、前後運動をしない。
ただ中でその存在を誇示するだけ。だがそれだけでもセレナの身体は快感を受け取っている。


それから三十分が経った。
やはり北辰は動かなかった。そしてセレナイトは悟った。

(北辰は、このまま一切動かずに……、オレが屈服するのを待つつもりだ)

強制的に絶頂させ、脅迫して媚を売らせるのではない。
自らの意志で媚び、絶頂し、屈服させるつもりなのだ。

(そ、そんなこと……、ぜ、絶対に……ぁっ、……くっ……、絶対に、しないっ)

潤む瞳で北辰を睨んだ。

「クックックックック……」

意図を悟ったセレナにようやく反応をみせた。
しかしそれでも律動をはじめる気はないようだった。

「ま、負けないっ、絶対に……負けない!」

自分に言い聞かせるように口に出して言った。
それは逆に自身の劣勢を語っているのに他ならないのだが。

さらにそれから一時間が過ぎた。

「ぁぁ……ぁっ……ぅぅ」

時折、ピクン! と身体が痙攣する。その際に擦れる北辰の怒張が波紋のように全身に伝わり、四肢を痙攣させる。
手の指が、足の指が仰け反るように痙攣する。

だがそれでも北辰は動かない。

そしてそれから三時間……。
驚異的なことに北辰の怒張は硬度を保ったまま、あり続ける。

「……ぅっ……、ぅぅ……」

しかしセレナはすでに限界に近づいていた。
知らず知らず嗚咽し、涙を流している。

心は戦っていても、身体が北辰の律動を望んでいた。
本能がすでに北辰に対し、屈服しはじめていた。

「ぁっ……、ぁぁ、……ぁっ!」

かすかに痙攣する。本当に小さく、小さく絶頂を迎えた。
しかしそれはさざ波のようなわずかな絶頂。満足できるものではない。

(負けない、負けない負けない負けない負けないっ)

念仏のように何度も唱える。
長時間、快感を与え続けられて疲労が溜まり精神的にも限界が来ている。
それでもセレナイトは戦った。

自ら腰を動かしそうになる欲求を何度も飲み込む。
負けない、と何度も呟く。何度も何度も呟く。

目を瞑って耐える。



そして更に三時間。



「ぅぅ、ひっく、……ひっく……」

もはや体面などない。最初の決意など風前の灯火。
泣くことで屈服の言葉が出るのに耐えているような状態だった。
結合している部分からは蜜が溢れて布団をベチャベチャに濡らしている。

(こんな……、こんなの無理だ)

涙を流しながら思う。
木連の暗部を統べる男、北辰。
この男なら、自分が屈服するまで本当に一日、二日、一週間だって平気でこの状態を維持しそうだ。
その間、自分は耐えられるだろうか? ……いや、否だ。

すでに精神疲労は限界に近い。快楽が熾火のように身体の芯に根付いている。
そしてそれが全身に伸びている。

こんな状態では眠ることなど出来ず、延々とこの快楽に耐え続けなければならないのだ。

(そんなの……無理だ)

「うぅ……、ぅぅ、……ひっく、ひっく」

「クックックックック……」

涙を流すセレナイトの葛藤が手に取るように分かっている。
そうとでも言うように北辰は嗤う。

「うぅ……」

それに対して反抗の意を示す気力は……、もはやセレナイトにはない。



さらに一時間が経つ。
もうすでに半日以上、中に怒張を挿入されたまま……。

「ぅぅ……、もう、だめぇ、……ひっく、……も、もう、いやぁ……、ひっく」

すでにセレナイトの精神は限界を超えていた。

「……………………」

それでも北辰は変わることなく、ただただセレナイトを見つめている。

「ぁぁ、もう……、もうだめぇ」

うわ言のように呟き続ける。
瞳の焦点はすでに合ってない。

「ひっく、ひっく……、ごめん、……ユリカ、……ひっく、……ルリちゃん……、ラピス……、みんな、ごめん」

虚空を見つめてそう言った。
そして北辰の顔に必死に焦点を合わせながら、彼の首に手を回し、口づけをした。

「お、お願いします……、もう耐えられません。……動いてください」

「…………………………」

「……ぁ、貴方のものになりますから。貴方の言うことを何でも聞きますから。……だから」

「クックック、あの時の威勢もここまでか。……案外、脆かったな」

「……っ! ……あっ……、ぁっ……ぁぁ!」

一瞬、怒りの色が瞳に浮かぶ。しかしそれは長時間燻ぶっていた快感の前にすぐ打ち消された。

「ひっく……、もう、やめて……、もう、許して……。ひっく……、私はもう……耐えられません」

「………………」

「動いて……、下さい。……私……、あっ……、貴方のものになりますからぁ!」

なりふり構わず、媚びるように言った。

「クックックック……、良いだろう」
「あぁ……!」

セレナイトの顔に喜色が浮かぶ。
そしてついに律動が開始された。

ズニュニュニュ……、
「ふぁぁぁぁ!」

ゆっくりとした律動。凶悪なカリ首が膣道を抉り取る。
そして一気に子宮口へと突き刺す。

ズン!

「ひぃん!」

セレナイトの視界に星が散った。

グチュン! グチュン! グチュン! グチュン!

「ひぁっ! あんっ! あんっ! あんっ!」

その後は凄まじい快感の波。
10時間近い焦らしの中で蓄積された快感の熾火に風を送り込んだようなもの。

「あぁん! 凄い! 凄いです! ひぁぁぁ! 死ぬ! 死んじゃう! ああぁっ!」

蜜を撒き散らし、勢い良く潮を吹きながらその快感に浸る。

「んぁ! あん! んっ! んっ! 良いです! 良いですぅ! ……イクのが止まらないぃ! ぅあぁぁ!」

北辰にしがみつき、足を絡ませながら嬌声を上げる。

「……………………」

北辰はその痴態を嗤いながら見ている。
そしてふいに言った。

「良い事を教えてやろう。……お前が乗っている艦だが。……我が軍が撃沈させたようだ」
「ひぃぁ! ……えっ? ぁっ! あっ! ひぁぁ!」

「お前達を乗せた脱出用ポッドと偽って中に爆薬を積んだものを送ってやったら、見事に掛かった。
よほど貴様は好かれていたんだろうな。藁にも縋る思いだったんだろう。あっけなく内部誘爆が起こって撃沈した。
我々を苦しめた艦の最後としては呆気なかったがな」

「あんっ!  そんなっ! うそだ! ……ひんっ! うそだぁぁ!」

快感が一気に吹き飛んだ。頭が真っ白になった。怒りが全身を駆け巡った。
自分のせいで、自分のせいでナデシコの皆が……。守るべき人たちが死んだ。

「うわぁぁぁ!」

ピストンから生じる快感を凌駕する怒りに動かされ、セレナイトの両手が北辰の首を掴んだ。

「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! うぁぁぁ!」

そう叫んで手に力を入れる。

ズン! ズン! ズン!

ひときわ強く突かれる。
子宮口をえぐるような強い突き。

「ひぁぁぁぁ!」

両手の力が緩んだ。
そして今度は子宮口を重点的に突くように、
コン!コン!コン!コン!……とノックするように。

「ひぁ! あっ、あっ、あっ! ……やっ、やめっ! やめろぉ!…… あんっ、ぅっ、っ!」

耐えられずに背を仰け反らせる。
そして動きを止めようと北辰の上体を押さえるが、どうなるものでもない。

「くそぉ! くそぉぉ! 殺してやる! 殺してやるぅ!」

涙をポロポロ流しながら呟き続ける。
快感の涙ではない。悔しさ、殺意の涙だ。
それなのに手が動かない。……身体が動かない。

「あっ……、ぁぁっ! ……ぁぁっ!」

両手をなんとか北辰の首に持っていこうとするが、

「ひぃん! いゃぁぁぁぁぁ!」

どうしても力が入らず。出てくるのは嬌声だけ。
しかも情けないことに潮まで噴いてしまっている。
北辰を心の底から殺したいと、呪詛の視線を浴びせているはずなのに……、
身体は最大限に感じているのだ。

「くそぉ! くそぉ! ……くそぉ!」

涙が止まらない。悔しさが止まらない。
快感が止まらない。

(オレのせいでユリカが……、ルリちゃんが……、ラピスが……。オレはまた守れなかったんだ)

そしてまたしても怨敵にその幸せを踏みにじられた。
心までも踏みにじられた。

……絶対の拠り所である殺意すらも踏みにじられてしまった。

(もう……、全てが終わったんだ。……オレはまた守れなかったんだ)

だからこれはある意味でセレナイトに与えられた罰だ。
愛する人たちを守れなかった自分は、憎き相手に陵辱されることで苦しむべきなのだ。
この世で一番憎むべき相手に良いようにされ、犯されることが、セレナイトの負うべき罰、なのだ。

「あぁ! ふぁぁ! ……、ほく……、しんっ……、んんっ!」

セレナイトは怨敵の名を呼び、その頬に両手を添えた。
そして……、

「私を……、罰してっ……んんぅ! ……私を。……あっ、んっ……私を、メチャクチャに……、貴方のものに……、んっ」

口付けをし、舌を入れてディープキスをした。
それは完全な陥落。


……恭順の意を示していた。















「さぁ、どうぞお入りください」
「…………」

ヤマサキが案内したのはアキトが以前までいたセレナとの部屋。
気絶させられて別室に連れてこられたあと、かなりの時間が経ってまた戻された。

(セレナイトさん……、無事で居てください!)

あれから何十時間も陰湿な攻めを受けたはずだ。
きっと想像を絶する苦痛に耐えたはずである。

プシュー

ドアが開く。

「あんっ! んっ! あんっ!」

聞こえてきたのはセレナイトの嬌声。
しかもその色は歓喜一色。耐える思い、屈辱の思いは一切聞こえてこない。

「…………えっ」

アキトの手の力が抜けた。

「んぁ! あっ……あっ! あぁ!」

後背座位の状態でお出迎えである。
北辰に背後から胸を揉まれ、貫かれているその様は何ともいえない幸せの色。

「あっ! んんっ! んっ……、アキト、 ごめん、……ぁんっ、ごめん」

「……セレナイト、さん」

「私は、誰も……、ひぅ! ……誰も、守れなかったんだ。……あぅっ!」

「………………」

「だから……、だからっ……、んっ……この身体とっ、心は、ひぃん!」

歓喜の表情のまま、瞳からは涙が溢れてくる。

「北辰たちの、ものに……。んぁ!  ぅぅ……、んくっ!」

ポロポロと涙をこぼす。

「私はもう……、んっ、あっ、あっ、あっ」




「本当に、……ごめん、アキト。……ひぃっ、あっ、だめっ、……イキますっ!」


背を仰け反らせて絶頂を迎える。
それとともに首を回して自分から、嬉しそうに北辰の口をむさぼった。







「セレナイト……、さん」




アキトは膝をついて……、





その痴態を見つめ続けた。

















ルリたちは死んでないよ?
セレナを完全に墜とそうとする北辰の嘘だよ? 

あと北辰みたいに長時間勃起したままでいると指の根元を紐で縛ったような状態になって腐って落ちるらしいので、よい子は絶対に真似しないでね?
僕も知らなかったよ。危なく腐らせてしまうところだったよ。

でも北辰は木連暗部の厳しい修行を受けているから出来るんだ。それはもう筆舌に尽くし難い修行だったと遠い目をしながら言ってたよ。
辛くて泣いてしまったこともあったんだって。

大変だよね。






 

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